アストロサイトからの贈り物
おひさしぶりです、ぷにぷにアザラシです。ばたばたしていて更新が滞ってしまいました。そんな間に台風の季節になりましたね。台風の贈り物と言えば暴風と豪雨ですが、脳の中にあるアストロサイトという細胞は、脳が大変なときにニューロンへ素敵なプレゼントを贈ることが最近発見されました。
“Transfer of mitochondria from astrocytes to meurons after stroke”
と呼ばれるこの論文(Hayakawa et al., Nature, 2016)では、アストロサイトが脳梗塞時にニューロンへミトコンドリアを供給することが示されています。
まずはアストロサイトとは何か、から説明を始めたいと思います。「人は脳の10%くらいしか使っていない」という言葉を聞いたことがありますでしょうか?これはあながち嘘では無いのかもしれないと、私は考えています。なぜなら、脳内で主役であるニューロン(神経細胞)は脳内にはほぼ10%程度しか存在していないためです。では残り90%は何なのでしょうか?それが実は、アストロサイトなのです。アストロサイトは脳内で一番多い細胞で、基本的にはニューロンが生きていくために必要な栄養分を分け与えたり、ニューロンがしっかりと機能するような手助けをしたりしています。いわゆる補佐役です。
ミトコンドリアについても軽く説明します。ミトコンドリアは端的に言えば「エネルギー産生工場」です。ミトコンドリアで糖などをエネルギーに変換することができます。なのでミトコンドリアは私たちにとって無くてはならない大切なものです。今までに、ニューロンは脳梗塞などでダメージを受けると、損傷したミトコンドリアをアストロサイトに送ることが知られていました。しかしアストロサイトからニューロンに何かを送っているのかどうか、よく分かっていませんでした。今回の論文は、実はアストロサイトは、ダメージを受けたミトコンドリアをもらうだけに留まらず、良いミトコンドリアをニューロンは返す機能もあることを示しました。メインな発見は以下の通りです。
- アストロサイトが機能的なミトコンドリアをニューロンに渡すことがわかった
- ミトコンドリアはアストロサイトから粒子に包まれて放出され、その放出はCD38とcyclic ADPリボースによる細胞内シグナリングに依存的だった
- マウスにて局所脳虚血を引き起こすとアストロサイトからのミトコンドリア放出が起こり、ニューロンの死が抑制された。この抑制はCD38に対する発現抑制(siRNA)によって消失した
1の発見はもちろん新しく素晴らしいのですが、さらに素晴らしいのはこのミトコンドリア放出メカニズムをさらに解明した(2)ところです。CD38やcyclic ADPリボースに関しては難しいので割愛しますが、これらの分子は細胞内カルシウムイオンによって制御されることが知られております。ですので、アストロサイトは何らかのカルシウムを介したシグナルを用いてミトコンドリアを放出しているということになります。ではどうしてアストロサイトの細胞内カルシウムイオン濃度が増えるのでしょうか?残念ながらそのあたりは、まだ解明されていないようです。
私の推測ですが、基本的に脳虚血など重大な障害が脳で生じると、脳はグルタミン酸とよばれるアミノ酸でいっぱいになります。グルタミン酸はニューロンを刺激して、ニューロンを殺してしまいます。その一方で、グルタミン酸はアストロサイトなど他の細胞にも働いて、細胞内カルシウムイオン濃度を高めることも知られています。もしかしたらこの論文で示されたことは、そのようなグルタミン酸によりおきるアストロサイトでの変化の1つなのかもしれません。今後も目が離せないような研究内容でした。
以上になります、最後までありがとうございました!
ぷにぷにアザラシでした!
“暖かい”といえる日まではまだ遠いけれど
ぷにぷにアザラシです。まだまだ暑い日が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?まだまだ昼間は暑いですね、夜は最近涼しくなってきたように感じるのですが。。。しかし、どうして暑いなんて感じるのでしょう?こんな感覚無くなれば良いのに・・・と思いませんか?
“The TRPM2 ion channel is required for sensitivity to warmth ”
と題された今回紹介する論文は、そんな「暑い」や「暖かい」などの根本に迫る論文になります。
私たちの体の表面に編み目のように広がり、いろいろなところから情報を脳へ伝えている神経細胞を、感覚神経と呼びます。そんな感覚神経はありとあらゆる感覚を教えてくれます。痛い、かゆい、熱い、冷たい、しびれる、チクチクする、撫でられている、指で押されている、などなど。思いつくすべての感覚を感じるのは、私たちの感覚神経がそれを捉えるからです。
ですから、感覚神経さえ騙せば、私たちは間違った感覚を感じることができます。そんなこと、できるわけないじゃないか。そう思いますよね?しかし、これができちゃうんです。しかもみなさんよくご存じだと思います。何かというと、温湿布と冷シップです。温湿布と冷シップは、そのものは触っても熱くも冷たくもないですよね?でも、熱いとか冷たいとか感じると思います。これはうまく感覚神経を騙すお薬(というほどのモノでもないですが)をつかって、感覚神経を騙して、私たちの体がその熱とか冷たさに反応する仕組みを上手く用いているのです。
そんな風に薬を作れるくらい、温度を感じる仕組みというのは実はよく研究されています。しかしながら、氷水が痛いほどに冷たく感じるしくみや、人肌体温くらいの心地よい暖かさを感じる仕組み、痛くない程度の不快な熱さを感じる仕組みというのは実は未だによく分かっておりません。今回の論文はそんな問題に果敢に挑戦し、そのうち痛くない程度の不快な熱さを感じる仕組みを解明した論文になります。
- DRGニューロンという、感覚神経の神経細胞を用いて、暖かい刺激にだけ反応する神経細胞を見つけ出し、それがTRPM2と呼ばれるイオンチャネルを持っていることを突き止めた。
- 自律神経と呼ばれる、感覚神経ではなく体の機能を調節するような神経にもTRPM2が発現しており、暖かい温度を感知していた。
- 遺伝子操作によりTRPM2を無くしたネズミではやや暑い場所から涼しい場所へ退避する行動が減少した。
TRPM2というチャネル(チャネルについてはこちらを参照)は以前より温度感受性があると言われていたのですが、感覚神経にて発現しており、それが温度感覚に結びつくか否かは分かっておりませんでした。今回はそこを明らかとしています。
どんな温度の種類かというのは3.のネズミの行動が表しています。TRPM2を無くすと涼しいところに退避できなくなったということは、TRPM2は暑苦しいところから涼しいところに退避するために重要である、と考えて良いと思います。ちょうど今のような夏の暑苦しさを感じるのは、私たちがTRPM2を持っているからかもしれませんね。こんなもの無くなれば良いのに・・・。
2.の自律神経にTRPM2があって温度を感じられるというのは、私には少し驚きでした。自律神経というのは「遠心性神経」といって、脳(中心)から体の各種臓器など(端)に向かって信号を送る神経として知られています(ちなみに感覚神経はこの逆で「求心性神経」といいます)。そんな自律神経が、どうして温度を感じなくてはならないのでしょうか?もしかすると脳の温度などを測っているのかもしれませんが、この結果の意味することが、私には少し分かりませんでした。今後解明される新しい事実があるのかもしれません。
温度感覚がこれからますます解明されてゆくことを祈っています。
以上になります、最後までありがとうございました!
ぷにぷにアザラシでした!
心のブレーキ
こんにちは、ぷにぷにアザラシです。お盆ももう暮れですね。このけだるい暑さもお盆と共に過ぎ去ってほしいものです。
さて、今回紹介する論文はこちらです!
「TRPC5 channels participate in pressure-sensing in aortic baroreceptors」
私たちの命を維持する上で最も欠かせない臓器、心臓。私たちは何も意識することなく心臓を動かしています。走ったり泳いだり激しい運動をすると酸素をたくさん全身に運ぶために心臓はたくさん拍動するようになります。脈が早くなると感じるのはこのためですね。しかし、マラソンのように長距離走ったとしても、心臓が凄まじい早さで拍動することはありません。ある程度の上限は決まっています。なぜでしょうか。
そこには、お年寄りがよく気にする血圧が関係しています。脈拍が上がると、相対的に血圧が高くなります。ヒトの体はこの血圧を感知して、血圧が高くなると心臓へ「脈拍を遅くしろ!」と指令が下る仕組みになっています。そのため、脈拍はある程度までしか上がることができないのです。
この血圧はいったいどこで感じているのでしょうか?それは、大動脈弓と頸動脈洞と呼ばれる、心臓のすぐ近くにある動脈で感じています。フリー素材の心臓の絵を使わせてもらうと、
このうち、大動脈弓は上の赤い部分、頸動脈洞はその赤い部分の突き出ている2つの管(カタツムリの目みたいに突き出ている部分)になります。本当に心臓のすぐそばです。
この大動脈弓や頸動脈洞に位置している神経が血圧ー脈拍の調節に非常に大切なことは古くから知られていました。しかし、この神経がどうやって血圧を感じているのか、その詳しいメカニズムは不明なままです。今回の論文はそんな疑問に立ち向かった話になります。発見の詳細を記すと、
- TRPC5というイオンチャネルが大動脈弓や頸動脈洞に位置する神経に存在することを確かめた
- TRPC5を働かなくしたマウス、TRPC5を持たないマウスでは血圧ー脈拍制御が上手くいかなかった
- TRPC5は血圧を模倣した圧力の変化を感知することができた
- TRPC5を持たないマウスは通常時血圧が普通のマウスに比べて高く、薬(フェニトイン)を用いて血圧を上げた際にも、普通のマウスで見られるような脈拍の減少が弱くなっていた
TRPC5が血圧および脈拍の制御に大切であることに関しては、今回の論文が初めての報告になります。この研究者達は以前にもTRPC5が細胞膜の伸展によって開くことを確かめていて、今回の論文はその「細胞膜の伸展」が血圧の感知に結びついていると示した、発展的な内容となっています。TRPC5を持たないマウス自体は以前から存在しているのですが、今回の4.の発見がもしも本当であるならば、今までのTRPC5を持たないマウスを用いた研究結果が、この血圧の違いによって引き起こされていないことを調べる必要があるのかもしれません。
昨今の高血圧治療薬は主に心臓や血管に直接働きかけるものや、腎臓に働きかけるものが多く、このような血圧を感知する神経に働きかけるものは少ないように思います。現在の高血圧治療薬では満足に血圧をコントロールできず、たくさん薬を飲んでいるような患者さんもいらっしゃることは事実です。もしかすると、このような新しい血圧コントロールのターゲットが、新しいよく効く薬の種につながるのかもしれません。
以上になります、最後までありがとうございました!
ぷにぷにアザラシでした!
ニューロンの嫌がらせ
おひさしぶりです、ぷにぷにアザラシです。最近暑くて死にそうです。。夜家に帰ると室温34℃。。何とかなってくれないものか。
というわけで(?)、今回紹介する論文はこちら!
“Somatodendritic Expression of JAM2 Inhibits Oligodendrocyte Myelination”
です。
以前の記事でも紹介しましたが、私たちのからだの中にニューロン(神経細胞)という「伝線」があって、そのおかげで私たちは体を動かせたりモノを考えたりすることができます。ニューロンというものは「伝線」なのですが、実は伝えられる方向が決まっています。例えば、左から右に情報を伝えるニューロンは、決して右から左に伝えることはありません(ダイオードのようなものですね)。
ところでニューロンの伝達する情報には、音や視界など、私たちがリアルタイムに対応しなければならないモノも含まれます。そのため、ニューロンの伝達は出来るだけ速いほうが都合が良いこともあります。ヒトの体は良く出来ているもので、こういうニューロンの伝達を引き上げるために活躍する細胞が存在します。それがオリゴデンドロサイトです。オリゴデンドロサイトは自分の一部をニューロンに巻き付けることによって「髄鞘」とよばれるものを作り、ニューロンの伝達速度を大幅に引き上げることが出来ます(跳躍伝導とよびます。Wikipediaはこちら)。
このオリゴデンドロサイト、ニューロンがいたらどこでも巻き付くのかといわれると、実はそうではないんです。初めにニューロンの情報を伝達する方向は決まっていると述べました。ニューロンはニューロン同士でつながって伝線を形成しています。その特徴を利用してニューロンの各部位には、下の図のように名前が付いています。前のニューロンから情報を受ける部分を「樹状突起(青)」、情報を後ろのニューロンに投げる部分を「軸索(緑)」と呼びます。オリゴデンドロサイトはこのうち、ニューロンの軸索にだけ巻き付くということが古くから知られています。オリゴデンドロサイトは巻き付けそうなものがあればとにかく巻き付く性質があるのですが、どうして樹状突起など他の部位は巻き付けられずにいるのか、全くもって不明でした。今回の論文は、そんな昔からの不思議を見事に解明したものです。
今回の論文の主な発見は以下の通りです。
- 次世代シークエンサーを用いてJAM2と呼ばれるタンパク質がその原因であると見出した。
- JAM2を自分で作れないように遺伝子操作したネズミでは、オリゴデンドロサイトが軸索以外(ニューロンの細胞体)に巻き付いていることが観察された。
- オリゴデンドロサイトはこのJAM2のシグナリングを介して軸索を選択することが出来ることを見出した。
次世代シークエンサーを用いた研究は昨今盛んですが、今回もその技術を巧みに利用しての大発見だと思います。さらに、その技術で見つけたことをしっかりと遺伝子操作などを利用して証明することで、堅固な論証が出来ていると感じました。
オープンアクセスな記事ではないのであまり詳しいことは書けないので、これ以上はこの論文について書かないようにはしますが、今まで不思議に思われていたことを、こうやって最新の技術を用いて証明できることを目の当たりにすると、昨今の科学技術の進歩はすごいんだなと、安易な表現ではありますがそう感じます。ただ、最新の科学技術があるからといってすぐに大発見が出来るわけではなく、この人たちのように、その技術とすこしのヒラメキを合わせることによって始めて大きな発見が出来るのだと思います。
今回の発見は要約すると、ニューロンがJAM2を出してオリゴデンドロサイトの巻き付きをジャマする、ってことですね!
・・・猛暑なのでこれくらい寒いギャグの方が良いでしょう。。くそぅ。。。
ということで今回はこのあたりで!
次回もよろしくお願い致します!
細胞は電気回路
ぷにぷにアザラシです。
今日は「電気生理学」のコラム第3回をお届けします。
(ちなみに第2回はこちら)
前回までに、細胞の外と中ではイオンの様子が異なることをお伝えしました(外にはナトリウムやカルシウムが多く、中にはカリウムが多い)。どうして細胞の外と中でイオンの様子が異なるかというと、「トランスポーター」と呼ばれる“ポンプ”が一生懸命ナトリウムを外へ、カリウムを内へ、というようにくみ出しているからです。つまり、本当は、ナトリウムは細胞内に、カリウムは細胞外へ動きたいのに、それが“ポンプ”の働きによって抑えられているのです。
では、そんな状況でもしも、細胞に“穴”が開いたらどうなるでしょうか?たちまち細胞内へナトリウムが入り、細胞外へカリウムは出て行ってしまうでしょう。実は細胞にはこのような“穴”が存在します。それが「チャネル」と呼ばれるものです。
多くの「チャネル」は普段閉じられています。しかし、いざという時に開いて、細胞のイオンバランスを壊します。イオンバランスを壊すとどうなるのでしょうか?例えば細胞の外からナトリウムが入ってきた時を考えましょう。ナトリウムというのは「+(プラス)」に帯電しています。プラスが中に入ってくるということはどういうことでしょうか?ここで、おそらく皆さんが習ったであろう「電気回路」について振り返りたいと思います。
プラスが移動するとはすなわち、「その方向に電流が流れる」ということを意味します。つまり、細胞に電気が流れるということです!実は私たちが普通に生活している間に、体中の細胞はビリビリと電気を流して自分の役割を果たしたりしているわけです。電気を流してどんなことがあるのでしょうか?一番有名なものは、ここでも昔取り上げたように、「神経細胞」と呼ばれる体中の電線が情報を脳に伝える時に大活躍しています(神経細胞の記事はこちら)。神経細胞に電気が流れるのは、例えば私たちがヒジの柔らかいところを机の角にぶつけた際にジーンと来るような感覚から、何となく想像できるのではないでしょうか?おそらくあのぶつけた時には、かなりの電気が流れているのだと思います。
もしかするとよくここの記事を読んでくださっている方は、前回の精子の記事にも「チャネル」が出てきたことを覚えておられるかもしれません(精子の記事はこちら)。しかし、この時は電気ではなくて、カルシウムイオンが大切な役割を果たしています。生き物って難しいものです。
ところでこんな電気の流れってどうやって測るんだろう?と思われた方も多いのではないのでしょうか?しかし実際、とある実験をすることでこの電気を私たちは測ることができます。そのことについてはまた次回触れたいと思います。次回で電気生理についてのコラムは最後にしようと思います(読者数を見ていると論文紹介の方がよく見られていそうですし)。
では、また次回もどうかお付き合いよろしくお願い致します。
ぷにぷにアザラシでした!
泳ぐか泳がないか
(人によっては今回のお話は科学的ではあるものの、“卑猥”と思うかもしれません。そういうお話が苦手な方は回避してください。)
こんばんは、ぷにぷにアザラシです。
今日は少し古いですが、2010年に発表された論文について紹介したいと思います。今日紹介する論文はこちらです。
“Acid extrusion from human spermatozoa is mediated by flagellar voltage-gated proton channel”
Spermatozoa。精子ですね。精子というと卵子まで頑張って泳いでいる姿を思い浮かべる方が多いと思います。しかし実は泳いでいる精子は女性体内でしか観察できない現象で、男性体内では決して泳いでおりません。その詳しいメカニズムについては当時よく分かっておらず、この論文が出るまでに分かっていたこととしては、「精子内部が酸性からアルカリ性になると精子は泳ぎ出す」というものでした。今回の論文はそんな未知を解明した論文になります。
この論文で報告された重要な点は以下のようになります。
- 精子には水素イオン(proton, H+)を通す「穴(チャネル)」があり水素イオンが精子の中から外に逃げていく。
- “アナンダミド”と呼ばれる油(脂質)によってその「穴」を通る水素イオンの量が多くなる一方で、亜鉛によってその「穴」は閉じられる。
- ヒトの精子には1.の「穴」が多いのに対してネズミの精子にはそれが非常に少ない。
ひとつずつ解説してゆきます。
1.について、水素イオンというのは酸性やアルカリ性を決めるもののことです。水素イオンが多くなれば酸性になり、逆に少なくなればアルカリ性になります。今回の論文では精子には水素イオンを通す「穴」があって、それによって水素イオンが精子の中から外に出て行きました。つまり、精子の中の水素イオンが少なくなったので精子の中はアルカリ性になったということです。精子の中がアルカリ性になるとどうなりましたか?そうです、精子は泳ぎ出すのです。つまりこの「穴」が開くと精子は泳ぎ出すことになります。ではどうやってこの「穴」の開閉を体の中で制御するのでしょうか?それが2.の発見につながります。
2.に出てきた“アナンダミド”とは、生殖器系においてたくさん存在することが知られています。つまり1.の「穴」はこのアナンダミドによって開きやすくなっていたわけです。では亜鉛はどうでしょうか?実は亜鉛は体の中に比べて精液中に大量に含まれていることが知られています。なので、男性体内では1.の「穴」が閉じられてしまうため、精子は泳ぐことができない、ということです。生命の造りの巧妙さに驚かされるばかりです。
3.はさらに驚きだと思います。なぜなら、1.と2.から、この「穴」は精子(つまりは受精や子孫の繁栄)に非常に大切だと思われるのに、進化的にこの仕組みが保存されていないことをはっきりと証明しているからです。これはかなり異常なことだと思います。なぜなら、骨や筋肉や脳や血液まで、ヒトとネズミはよく似ていることが知られています。だから私たちはほとんどの場合、ヒトの代わりにネズミを使って実験をして、新しい薬や治療法を見つけ出そうとするのです。もちろんネズミとヒトは生活の仕方が違うので、それぞれに必要な部分が発達して、必要の無い部分は退化しています。しかし、子孫繁栄はネズミとヒトだけでは無くすべての生物にとって非常に重要なことであるはずです。なのにヒトとネズミでこんなに違う。おそらくネズミにはこの研究で見つかった「穴」以外の何か“別物”があるのでしょうが、どうしてネズミの持つ仕組みが捨てられ、別の新しい仕組みをヒトは得たのか。本当に謎でしかありません。もしかしたら子宮の数とか、そういうところで差があるのかもしれませんが、こんなにも違うことに本当に驚きました。
このヒトとネズミで精子の運動システムが違うということは、ヒトの不妊治療の研究をネズミで実験してもうまくいかないかもしれない、ということを意味していると思います。最近の不妊治療の研究について私は残念ながら無知ですので何もお応えできませんが、そういう観点が非常に大事になるのかもしれないと思いました。それにしても生命って本当に不思議なものです。
以上になります!ありがとうございました!
ではまたよろしくお願い致します!