The Scientific Ocean

誰にでもわかりやすいように生命科学を解説しようとするアザラシのブログ。

中の人(アザラシ)のTwitterは@puni2azarashiです。 このブログの趣旨はこちらを参照
2018.9~ noteもはじめました!こちらへどうぞ!

海外ラボのボスを選ぼう・連絡しよう [note]

こんにちは。ぷにぷにアザラシです。
アメリカ留学関連のnoteを更新しましたので、紹介です。


4. 留学先、どう選ぶ?

note.mu
留学する上で一番大切な、留学先の研究室選び。
昔、私が選ぶ際に考えたポイントについてまとめました。

アメリカ以外への研究留学でも参考になると思います。是非。

 

5. 留学先へのメールの書き方

note.mu

特に初めてこういったフォーマルな英文メールを書く際、
どうすれば良いか分からないと思います。
私が当時使った英文メールのテンプレートを公開しますので、
是非参照して下さい。


またnoteの更新があれば随時こちらにもお知らせ致します。
それでは読んで下さり、ありがとうございました!

腸から脳へ超特急でお伝え!

こんにちは、ぷにぷにアザラシです。今回はこの論文を紹介します!

science.sciencemag.org

カラパイアのこの記事でも紹介されていましたが、少し言い過ぎ?なところがあったので、ちゃんと紹介します!笑

 

これまでわかっていたこと

 腸と脳のコミュニケーション、これは最近流行の研究分野です。特に、腸内細菌は細菌とっても流行っていて、妊娠中のお母さんネズミの腸内細菌のバランスが良くないと、生まれてくる子供に精神障害傾向になる、なんていう衝撃的な論文も既に報告されています (詳しくはこの論文です)。

 腸には神経が走っているのですが、腸の神経はかなり発達しています(昔この論文も紹介しましたね)。また、脳と腸とは迷走神経という神経で繋がっていることが広く知られています。ですので、腸の神経と脳とのつながりは必ずある、と考えられてきました。迷走神経には脳 --> 腸方向と、腸 --> 脳方向と、両方向の神経線維が走っています。しかし、このうち、腸 --> 脳方向の詳しい仕組みがわかっていませんでした

 

今回わかったこと

 今回の研究者達が発見したのは、どうやって腸の細胞が迷走神経へ信号を送るのか、という点です。具体的には、

  • 腸上皮のエンテロエンドクリン細胞と迷走神経は直接繋がっていた
  • エンテロエンドクリン細胞は、糖を感知して迷走神経へ信号を送っていた
  • エンテロエンドクリン細胞はグルタミン酸神経伝達物質として使っていた

の3点を、細胞レベルだけではなく、マウスレベルで明らかにしました。

 

アザラシ的にすごいところ・感想

 まず驚いたのは、腸には発達した神経回路が存在するにもかかわらず、そんなものすっ飛ばして脳と腸とが1本の神経線維で繋がっていたことです。これは別の言い方をすれば、腸は何の信号整理もせず、とりあえず脳へ信号を送って、あとは脳に任せっきり、ということを示します。確かに目や耳も同じように脳に任せっきりではありますので、腸が糖を感知するという仕組みは、皮膚で痛みを感じるような感じではなく、目でものを見るような感じだ、ということになります。本当に・・・?
(皮膚で感じた感覚は全て、一度背骨の中の脊髄でしっかりと情報制御されてから、脳へと伝えられます)

 その他は、細胞を同定したことはすごいですが、まだまだ分からないことだらけです。特に私は、糖をかけて細胞が興奮するのは他でも知られているので(膵臓β細胞など)、糖以外の栄養(アミノ酸・脂質)ではどうなるのかが気になります。また、最近ケトンダイエットが流行ですが、この神経の活性化と肥満化の関連も気になりました(活性化したら太りやすい、とかだと面白いですね)。

 

何はともあれ、言いたいことはひとつ。

腸は超すげー!

 

・・・失礼致しました。

というわけでこのあたりで!読んで下さりありがとうございました!

 

 

アメリカ研究留学に関してマガジン始めました [note]

こんにちは、ぷにぷにアザラシです。もしかしたらこのブログをたまに覗きに来てくれている方がいるかも?と感じたので、こちらでも紹介します。

実は、アザラシは、昔アメリカに留学していました。最近研究留学することを日本も推進していることもあって、これからは私の留学体験などについても書いていこうと考えています。

このブログに書いても良いかと考えていたのですが、最近流行のnoteに手を出して、そちらで書くことにしました。

 

note.mu

 

もしもよろしければ、どうぞ見てやって下さい。他でも得られる情報もありますが、ここでしか得られないことも書いています(私が調べるときに苦労したので)。

 

どうぞよろしくお願いいたします!それでは、ぷにぷにアザラシでした!

辛さは何倍?

こんにちは、ぷにぷにアザラシです。

最近、Twitterでこんな発言を目にしました。

辛いカレーが好きなので、お初のカレー屋さんに行くと大抵は3倍辛くらいで頼む。そこの辛さの基準が分からないから、最初はこれくらい。で、「なんだ全然いけるじゃん」と思ったら、次は10倍くらい頼むと、まあ〝感覚的に辛さ2倍〟くらいかなと感じている

 

実は私、昔 “辛みセンサー” の研究をしていたので、ここはばっちりお応えしたいと思います!笑

 

人はどうして辛さを感じるのか 

それは、舌に辛みセンサー、通称  TRPV1  というタンパクが存在しているからです。TRPV1は、辛さの正体である カプサイシン と結合して、電気的な信号を生み出します。それが脳に伝わって、辛い!と感じるわけです。

 

ということで、辛さの強さは、TRPV1がどれくらいカプサイシンに反応するか、に依存します。それでは、TRPV1とカプサイシンの関係はどんな感じなのでしょうか?というと、こんな感じになります。

f:id:punipuniazarashi:20180918100232p:plain

(値は実験値ではありません、論文データを基に適当に作っています)

横軸を濃度の対数、縦軸を反応率にすると、こんな感じの関係になります。

カプサイシンが10の-6乗 mol/L(1マイクロモル)で、半分のTRPV1が活性化します。

 

この図からわかるように、濃度が高すぎると既に天井に達していて、それ以上は増えませんし、逆に低すぎればほとんど感知することができません

(このカーブは生物学的にはとても大事で、シグモイド曲線といいます)

 

 結論

というわけで、「辛さは単純にカプサイシンの濃度には比例しない、どれくらい辛くなるかは、はじめのカプサイシンの濃度による」というのが、アザラシの答えです。

・・・なんか中途半端な答えですいません、でもこれが事実です 笑

 

ちなみに、カプサイシンの濃度が 0.3 マイクロモルを越えると、辛さを示す注意書きが必要なようです(農水省このページ参照)。ということは「辛い!」と感じる程度では、まだTRPV1は半分も活性化していないということですね。逆に全部活性化したらどれくらい辛いことやら(痛そうです)。。。

 

ちなみに

辛いもの、食べているとだんだんと慣れてきますよね?

実はこれは、辛いものを食べすぎると、TRPV1センサー本体が舌の表面から無くなってしまうのです!だから、辛いものをいくら食べても、既に辛みセンサーが無いので、辛さを感じることができない、というわけです。TRPV1がずっと活性化していると、TRPV1を持つ細胞は死んでしまうので、細胞が自分を守るためにそうするのだと思います。本当の理由は神様しか知りえませんが。。。

 

 

以上になります!読んで下さってありがとうございました!

 

完璧な鎮痛薬?!

ずいぶんとお久しぶりです。ぷにぷにアザラシです。

最近紹介する論文の方向性を見失っていたのですが、このブログをご覧になる方の中には、薬剤師の方もそこそこ多いのでは?と感じたので、今回はこんな論文を紹介します。

stm.sciencemag.org

 

ご存じの方もいらっしゃるかも知れません。これは先日和歌山県医大でプレスリリースがあった研究発表の、大元の論文になります(プレスリリースはこちら)。

オピオイドとは

オピオイドとは、麻薬系鎮痛薬であるモルヒネフェンタニルオキシコドンなどを指します。基本的には、ロキソニン(ロキソプロフェン)やリリカ(プレガバリン)といった、他の薬理機序を持つ鎮痛薬では治らないような強い痛みに対してだけ用いられます。

 

基本的にオピオイドは、µ(ミュー)オピオイド受容体と呼ばれるタンパクにひっついて効果を発揮します。µオピオイド受容体は、脳や脊髄の中の、痛みに関する神経細胞に生えていて、こういった神経の活動を抑制するため、全身の痛みを抑えることができるのです。

 

しかし、オピオイドには多くの副作用があります。有名なのは、吐き気・便秘・呼吸抑制です。なぜ副作用があるのでしょうか?これは、µオピオイド受容体が、脳の吐き気を止める神経や、腸の動きを操る神経、呼吸を司る神経にも生えているためです。オピオイドがこういったµオピオイド受容体に働いて、神経の活動を抑えてしまうので、吐き気や便秘、呼吸抑制になってしまうのです。

 

また、もうひとつ大きな問題として、依存性があります。麻薬という名の通り、オピオイド乱用すると、薬物依存になってしまいます。

(はっきり言いたいのですが、痛みの強い患者さんが、しっかりと医療現場でコントロールされながらオピオイドを使用した場合、薬物依存に陥ることは絶対にありません(基礎科学的な実験で、薬物依存にならない理由まで既にわかっています)本当にどうしようもない痛みがある場合は、お医者さんに相談してから、安心して使って下さい)

 

そういった経緯から、日本では特に、使いたくないという患者さんも多いというのが現状です。

 

今回の発見

今回この研究では、新しく“AT-121”という薬を生み出しました。このAT-121は上記のµオピオイド受容体の他に、NOP(ノシセプチン)受容体にも働きかけることができます(正確には、両方の受容体に対する部分作動薬)。このNOP受容体というのはすごくて、オピオイドの主作用である鎮痛作用を増強する一方で、オピオイドの副作用である呼吸抑制や薬物依存を減らすことができます

この論文上の研究者たちは、実際にサルを使った実験で、AT-121の鎮痛作用が強いこと、副作用がほとんどないことを示しています。

 

感想

まず、サルを使って実験している時点で、既にものすごい研究です(基本的にはネズミを使うので)。その上で、副作用が少なく、鎮痛効果の高い新薬を創成しているところは、もはや脱帽です(この化合物のデザイン方法も、本当に目を見張るものがあります)。

便秘や嘔吐に関してはおそらくサルでは実験が厳しいでしょうから、今回はデータが示されていませんが、このあたりの副作用も少ないのであれば、本当に夢のような鎮痛薬となってくれるかと思います。早く治験に進んで欲しいものです。

痛みの研究領域では、最近どんどん新しいことが見つかっているので、この研究のように、今後は臨床応用の可能性を示すような研究がどんどん出てきて欲しい、と感じています。鎮痛剤も結局、オピオイドを越える新薬はまだ出ていないですもんね。この化合物の未来を、私は本当に楽しみにしています・・・他人事のように書いてしまいましたが 笑。

 

久しぶりなのに書き方が雑ですが(反省)、このあたりで終わろうと思います。ここまで読んで頂きありがとうございました!

子宮頸癌ワクチンの論文の処遇について

ずいぶんと久しぶりになりました。ぷにぷにアザラシです。
最近めっきりサボってしまっていました。。。今回も論文紹介はできないのですが、
最近twitterで見かけた記事に対して、自分の意見を書いてみようと思い、今回の投稿に至りました。

今回気になったのは子宮頸癌ワクチン」に関するScientific reportに掲載された論文のリトラクト(掲載削除)に関してです。詳しくは以下のリンクに書いてあります。

note.mu

 

本論文はこちらです。

www.nature.com

 


はじめに断っておきますが、私はまだ若手研究者ではありますが、一応アカデミックに身をおいて研究をしている身ですので、研究が論文化されるまでの過程について、論文のことについて、全くの素人ではありません。また、今回の記事は、特定の人物や団体を、否定したり肯定したりするものではありません。その他、この研究者達が動物委員会の申請を通していなかったなど、何か他にも問題があるのかも知れませんが、今回はこのリトラクト(およびこの論文の研究)についてのみ、意見を述べさせて頂きます。

 

私は、今回のリトラクトは、少し行きすぎているのではないか、と感じました。

通常リトラクトとは、件の小保方さんの時のように、データの改ざん等、再現が全く取れない「嘘」が含まれている論文に対して行われるもののはずです。しかし、今回のリトラクトは、投稿されたデータに「嘘」が見つかったわけではなく、「HPVワクチンの副作用モデルとしては、実験計画が良くない」という理由によるものです。主には、

  1. HPVワクチンだけではなく、百日咳毒素も投与している
  2. HPVワクチンの投与量が多すぎる

でしょうか。これらについて、以下に私の意見を述べます。

 

1.について

百日咳毒素という名前なので、さぞかし強烈な毒、という印象がありますが、実際にはこれ単体でマウスが病気になる訳ではありません。実際にこの論文の図1(Fig. 1)でも、ちゃんと百日咳毒素だけを投与したマウスを用意して、他と比較しています。このFig. 1からわかるように、確かに百日咳毒素だけを投与したマウスや、HPVワクチンだけを投与したマウスではほとんど行動異常が出ない一方で、HPVワクチンと百日咳毒素を両方投与したマウスでは、行動異常が観察されやすい、ということがわかります。

 

2.について

人に投与する時は、0.5 mLを3回(合計1.5 mL)、という方法を取るようです。一方、今回の論文では0.1 mLを5回に分けて(合計0.1 mL)投与しているようです。基本的に薬を投与する時は体重をベースに用量を計算することが多いので、体重比較をしてみましょう。
人は女性の10代が主な対象ですので、平均を取って15才日本人女性の平均体重である51.6 kg(ここから参照)、マウスは11週齢なのでだいたい25 g(0.025 kg)くらいだとすると、(0.1/0.025) ÷ (1.5/51.6) = 137.6 なのでおおよそ140倍程度多い量を投与していたことになります。

 

これらを鑑みると、確かに、ヒトがHPVワクチンを投与された際の状況と、今回のマウスでの実験の状況とは、大きく異なることがわかります。

 

しかし、筆者たちもこのことは既に気付いていて、論文の要旨にも以下のように記載されています。

 

 These data suggested that HPV-vaccinated donners that are susceptible to the HPV vaccine might develop HANS under certain environmental factors. These results will give us the new insight into the murine pathological model of HANS and help us to find a way to treat of patients suffering from HANS.

(これらのデータは、HPVワクチンを投与された人のうちHPVワクチンに敏感な人は、特定の環境因子が揃えば、HANS*1になりうることを示している。これらの結果は、マウスを用いたHANS病態モデルに対する新しい知見を示し、HANSに苦しむ患者を救う手立てを見つける機会を私たちに与えてくれるだろう)

 

私が今回のこの問題で、意見を述べたいと思ったのは、「基礎科学をベースにした論文の結果からすぐに臨床現場のことを解釈するのは無謀だし、逆に、臨床現場に即していないからといって基礎科学的な研究を全否定するのはおかしい」と感じたためです。

 

百日咳毒素はよく使われる免疫活性化剤ですが、何の環境因子の代わりになるのか、それは未だに解明されていません。しかし、同じように百日咳毒素を使って、マウスで病気のモデルを作成し、創薬まで成功した病気もあります。それは多発性硬化症です。

多発性硬化症は指定難病のひとつで、1万人に1人くらいの割合で発症します。この病気は神経を取り巻く髄鞘といわれるものに、免疫細胞が間違って攻撃してしまって発症するとされますが、どうして発症するのかは未だに分かっていません。その病気に対する薬を作るのには、やはり動物実験である程度の成果を得なければならないのですが、ヒトでどうして発症するか分からない病気を、マウスで高頻度で発症させる*2のは至難の業です

そこで、多発性硬化症では免疫応答が異常になることに着目して、百日咳毒素をマウスに投与します。さらに、普通ヒトでは起こっていないのかも知れませんが、髄鞘のタンパク質(MOG等)を過剰に投与して、わざと免疫反応を起こします。これが、多発性硬化症の動物モデルであるEAEマウスの正体です。こうして書くと、EAEマウスもかなり異常なことを行っていますが、このマウスのおかげで今日の多発性硬化症に対する薬ができたのも事実です。

そういった意味で、今回HANSのマウスモデルを作成する時に、百日咳毒素を投与したり投与量を異常に高くしたのは、ある意味では仕方がない措置だったのかも知れません。

 

まだ、HPVワクチンと一部の人で見られるHANSと呼ばれる症状が、本当にHPVワクチンと相関があるかは分からないと思います。それに加えて、いくつかの臨床研究では、その2つの関係を否定しているのも事実でしょう。つまりHANSの存在自体があやしいというのは、否定できないことだと思います。

ただ、だからといって、今回のこの論文をリトラクトして良い、という判断にはならないでしょう。論文発表は科学に対して真摯であるべきです。例え現状とは合わなくとも、そこから何も得られない訳ではありません。この実験条件では、マウスは行動異常(および解剖知見)を示す、この結果もまた、立派な科学的事実です。今回の結果が本当に臨床現場の現象に当てはまらないのかは、これからの研究が決めることでしょう。また、この結果が、HANSではなく、他の研究に対して良い影響を与えるきっかけになったかも知れません。それなのに、そういう次に続いたかもしれない研究の芽を、リトラクトという形で取り除いてしまうことになった今回の件は、研究者として私は少し残念に感じました。

 

まじめで暗い話になってしまいましたが、最後まで読んで頂きましてありがとうございました。失礼致します。

 

*1:HPVワクチンによっておきるとされる神経炎症性症候群の総称

*2:高頻度で発症させる、というのは、もしもヒトとマウスが同じ頻度でこの病気にかかるのであれば、マウスを1万匹飼育してようやくこの病気のマウスを1匹手に入れることができる、ということです。こんな方法を取っていたのでは、いつまで経っても薬を作ることはできません。そのため、どんな病気に対する薬を作る場合でも、ほぼ確実に特定の病気を引き起こすことのできる病気のモデルをマウスで作ることは、とても重要なステップなのです。