The Scientific Ocean

誰にでもわかりやすいように生命科学を解説しようとするアザラシのブログ。

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見分ける技術

お久しぶりです、ぷにぷにアザラシです。最近暑いですね、夏がやってきてしまう。。先週実は北海道に少し行ってきたのですが、北海道も残念ながら暑かったです。。

さて、今日はそんな暑さを吹き飛ばすべく、論文を紹介してきたいと思います!本日紹介する論文はこちら!

New tools for studying microglia in the mouse and human CNS

です!

ちょっと前置きを説明すると、私たちの赤い血液の中には、たくさんの細胞が存在しています。赤血球や白血球、血小板は聞いたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。そのうち白血球にはさらにたくさんの種類があって、たとえばT細胞やB細胞、単球というものが存在します。

このうち単球には(他のもそうですが)さらにたくさんの種類があります。マクロファージや破骨細胞、樹状細胞、クッパー細胞にミクログリアこれらの多くは住んでいる場所によって区別されます。例えば破骨細胞は骨、樹状細胞は皮膚、クッパー細胞は肝臓、ミクログリアは神経(中枢神経系 (central nerve system, CNS))、という具合です。人間でいうと日本人は日本、中国人は中国、アメリカ人はアメリカ、イタリア人はイタリアに住んでいる、みたいな感じです。マクロファージは色々な臓器に入っていくので、旅人のような感じでしょうか。

現在、これらそれぞれの細胞に対して多くの研究がなされてきているのですが、その中で取り残されていた大きな問題のひとつに「ミクログリアとマクロファージを分けることが非常に難しい」というものがありました。簡単に言うと、「イタリアの中でイタリア人と旅人を明確に分けることができなかった」、ということです。今回紹介する論文は、その大問題にネズミとヒト(ご検体)を用いて果敢に挑戦し、それを解決したひとつの事例です。

今回の論文の大きな発見は以下のようなものになります。

  1. TMEM119というタンパク質がミクログリアにおいてのみ存在することを発見した。このタンパク質はマウスが誕生してから徐々に増えていき、生後14日で最大となった。
  2. TMEM119の存在は、マウスに炎症などの病気を引き起こした状態でも安定して観察することができた。
  3. TMEM119を用いることによって、ミクログリアを脳から選んでくることにより、今までは不可能だったミクログリアでの遺伝子的な変化を観察することに成功した。
  4. ヒトにおいてもTMEM119がミクログリアにおいて存在していた。

とにかく、TMEM119を見つけたことが何よりも素晴らしいのですが、これがマウスを病気にした時でも使える(2)ということがさらに素晴らしいのです。なぜなら、今まで見つけることができなかった病気の時のミクログリアのはたらきを、このTMEM119を用いることによって、今までよりもかなり簡便に証明することができるようになるためです。ミクログリアは神経に存在しているため、アルツハイマー病や脳卒中など多くの脳での病気に密接に関与すると言われる細胞です。さらにこのアルツハイマー病や脳卒中は、満足のいく治療薬がほとんど存在しないのが現状です(つまり発症したら半分くらいは諦めざるを得ない)。今まで行われてきた研究で病気の時のミクログリアのはたらきは数多く示されてきてはいますが、どうしても旅人であるマクロファージが紛れ込むため、本当のミクログリアのはたらきを追うことができていませんでした。それが、この論文の研究の発見によって可能になったのです。本当に素晴らしいと思います。この発見によってミクログリアの「本来の姿」が証明され、新しい治療戦略が生まれることを期待しています。

少し難しい話をすると、TMEM119は「膜貫通型タンパク質」であるため、外から「抗体」と呼ばれるミサイルみたいなもので「狙い撃ち」することができます。ですので、もしもミクログリアアルツハイマー病などで“悪者”として活躍するのであれば、この抗体と“爆弾”である抗がん剤などを合体させてやれば、ミクログリアだけを爆弾で狙い撃ちしてやっつけて、病気を治すことができるのかもしれません(この、抗体爆弾というお薬は、別のものですが実在します)。そういう、研究の発展とは別の方向でも活路があるような研究だと感じました。

本当に、この論文を読んだ時は感動しました。この論文で発見された新しい技術はきっと、これからの研究と新薬開発の未来を大きく動かすことでしょう。私もこんな発見ができるように頑張らなくてはと思いました。

 

以上になります!ありがとうございました!

ではまたよろしくお願い致します!