The Scientific Ocean

誰にでもわかりやすいように生命科学を解説しようとするアザラシのブログ。

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“暖かい”といえる日まではまだ遠いけれど

ぷにぷにアザラシです。まだまだ暑い日が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?まだまだ昼間は暑いですね、夜は最近涼しくなってきたように感じるのですが。。。しかし、どうして暑いなんて感じるのでしょう?こんな感覚無くなれば良いのに・・・と思いませんか?

The TRPM2 ion channel is required for sensitivity to warmth

と題された今回紹介する論文は、そんな「暑い」や「暖かい」などの根本に迫る論文になります。

私たちの体の表面に編み目のように広がり、いろいろなところから情報を脳へ伝えている神経細胞を、感覚神経と呼びます。そんな感覚神経はありとあらゆる感覚を教えてくれます。痛い、かゆい、熱い、冷たい、しびれる、チクチクする、撫でられている、指で押されている、などなど。思いつくすべての感覚を感じるのは、私たちの感覚神経がそれを捉えるからです。

ですから、感覚神経さえ騙せば、私たちは間違った感覚を感じることができます。そんなこと、できるわけないじゃないか。そう思いますよね?しかし、これができちゃうんです。しかもみなさんよくご存じだと思います。何かというと、温湿布と冷シップです。温湿布と冷シップは、そのものは触っても熱くも冷たくもないですよね?でも、熱いとか冷たいとか感じると思います。これはうまく感覚神経を騙すお薬(というほどのモノでもないですが)をつかって、感覚神経を騙して、私たちの体がその熱とか冷たさに反応する仕組みを上手く用いているのです。

そんな風に薬を作れるくらい、温度を感じる仕組みというのは実はよく研究されています。しかしながら、氷水が痛いほどに冷たく感じるしくみや、人肌体温くらいの心地よい暖かさを感じる仕組み、痛くない程度の不快な熱さを感じる仕組みというのは実は未だによく分かっておりません。今回の論文はそんな問題に果敢に挑戦し、そのうち痛くない程度の不快な熱さを感じる仕組みを解明した論文になります。

  1. DRGニューロンという、感覚神経の神経細胞を用いて、暖かい刺激にだけ反応する神経細胞を見つけ出し、それがTRPM2と呼ばれるイオンチャネルを持っていることを突き止めた。
  2. 自律神経と呼ばれる、感覚神経ではなく体の機能を調節するような神経にもTRPM2が発現しており、暖かい温度を感知していた。
  3. 遺伝子操作によりTRPM2を無くしたネズミではやや暑い場所から涼しい場所へ退避する行動が減少した。

TRPM2というチャネル(チャネルについてはこちらを参照)は以前より温度感受性があると言われていたのですが、感覚神経にて発現しており、それが温度感覚に結びつくか否かは分かっておりませんでした。今回はそこを明らかとしています。

どんな温度の種類かというのは3.のネズミの行動が表しています。TRPM2を無くすと涼しいところに退避できなくなったということは、TRPM2は暑苦しいところから涼しいところに退避するために重要である、と考えて良いと思います。ちょうど今のような夏の暑苦しさを感じるのは、私たちがTRPM2を持っているからかもしれませんね。こんなもの無くなれば良いのに・・・。

2.の自律神経にTRPM2があって温度を感じられるというのは、私には少し驚きでした。自律神経というのは「遠心性神経」といって、脳(中心)から体の各種臓器など(端)に向かって信号を送る神経として知られています(ちなみに感覚神経はこの逆で「求心性神経」といいます)。そんな自律神経が、どうして温度を感じなくてはならないのでしょうか?もしかすると脳の温度などを測っているのかもしれませんが、この結果の意味することが、私には少し分かりませんでした。今後解明される新しい事実があるのかもしれません。

温度感覚がこれからますます解明されてゆくことを祈っています。

以上になります、最後までありがとうございました!
ぷにぷにアザラシでした!