「冷たく痛い」は「遠回し」な感覚
こんにちは、ぷにぷにアザラシです。台風が次から次へとやってくる毎日ですね。個人的に、宇宙から撮影された台風の写真は美しいと思うのですが、どうでしょうか?目のあたりとかくっきりしていると良いですよね・・・?さて、今日はそんな前置きとは全く関係なく(笑)、こんな論文を紹介します。
突然ですが、氷水に手を入れたときの感覚を想像してみて下さい。おそらく多くの方は当然、「冷たい!」と初めは感じるはずです。しかしそのまま手を入れておきましょう。そうすると、だんだん「痛い」感覚になってきて、耐えられず氷水から手を出してしまうことになるかと思います。以前の記事でも紹介しましたが、この「冷たく痛い」感覚の実態は実はよく分かっていません。
少し詳しいことを説明すると、私たちが痛い、かゆい、熱い、といったすべての感覚を感じるためには、感覚神経が活性化することが不可欠です。ですので、感覚神経にはそういった痛いや熱いといった情報を捉えるための「センサー」が存在します。今までの温度を感じる仕組みについての研究では、こういうセンサーは熱などを直接感知すると考えられてきました。しかし、今回のこの論文ではそのような仕組みとは異なった方法でセンサーが冷たさを感知することを明らかとしました。
- TRPA1というセンサーが低酸素状態にて、過酸化水素に対する感受性が増大する
- 冷たい刺激を受けると細胞が過酸化水素を出すため、低酸素状態ではTRPA1が冷たい刺激に対して反応するようになる
- オキサリプラチンとよばれる抗がん剤を使用すると、低酸素状態に似たような状態になるため、冷たい刺激に対して過敏になる
メインの発見は2.で、冷たい刺激がまず過酸化水素を産生し、それが感覚神経のセンサーであるTRPA1を活性化することで「冷たく痛い」という感覚につながるようです。つまり、感覚神経のセンサーが冷たい刺激に直接反応するのではなく、過酸化水素という物質を1つ介して、「遠回しに」冷たい刺激に反応するということです。3.で出てくるオキサリプラチンという抗がん剤は、大腸がんに対してよく用いられるもので、これを用いて治療される患者ほぼすべてが、冷たいコップを触るだけで「ピリピリ」と感じるといった、冷たい刺激に対して過敏なることが知られています。この論文ではそのオキサリプラチンによって起こる過敏症状をよく説明しています。
残念ながら、冒頭で例に出したような氷水による「冷たく痛い」という感覚が、この論文の機序によって引き起こされるのかどうかは、この論文では論じられていないのでわかりませんが、もしかすると似たような何かが起こっているのかもしれません。しかし、温度センサーの反応する新しい仕組みを示しているところは、面白いと思います。今回は過酸化水素でしたが、脂質など他の分子の関与も気になるところです。また新しい仕組みが明らかとなっていくことでしょう。
以上になります、最後までありがとうございました!
ぷにぷにアザラシでした!