T細胞による「物理的」攻撃
こんにちは、ぷにぷにアザラシです。最近急に涼しくなりましたね。そのおかげで鼻が詰まり気味な今日この頃です。そんな私の鼻の中では、おそらくたくさんの免疫細胞が戦っていることでしょう。今日紹介する論文はそんな免疫細胞のお話です。
“Cytotoxic T Cells Use Mechanical Force to Potentiate Target Cell Killing”
という今回の論文の主人公は、細胞傷害性T細胞という免疫細胞です。昔この細胞は“キラーT細胞”と呼ばれていました。Killer。殺し屋。そうです、その名の通り、この細胞は細胞を殺すために存在する細胞なのです。「そんな、生き物にとって害しかなさそうな細胞がどうして体にいるんだ!?」と思われる方もいるかもしれません。しかし、この細胞、とっても大事なのです。
私たちの体の中に例えば細菌やウイルスが入った場合、基本的には好中球やマクロファージがその細菌を食べ、さらにはB細胞が抗体と呼ばれる“ミサイル”を作り出すことでその細菌をやっつけます。しかし、ウイルスの中にはそんな攻撃から逃れるために細胞の中へ逃げるモノもいます。そうなってしまうと、マクロファージなどは食べることができませんし、ミサイルである抗体も細胞の中には届きません。こうなってしまうとウイルスに敵はいなくなり、そのまま放っておけば細胞の中でウイルスが大繁殖して、私たちの命が危ないことになりかねません。そんな時、この細胞傷害性T細胞は威力を発揮します。つまり、ウイルスに感染してしまって弱っている細胞を殺すことで、ウイルスが大繁殖してしまうことを防ぐわけです。
この細胞傷害性T細胞はどうやって弱っている細胞を殺すのでしょうか?単純に言うと「相手に穴を開けて、毒を盛る」という方法を使います。なかなかエグい方法で殺すものです。今回の論文はさらに、このT細胞は自分の開けた穴を“力”でこじ開ける、ということを発見しました。
- 細胞傷害性T細胞は、相手の細胞の表面に力をかけて引き延ばし、その力に依存して相手の細胞にかかるダメージが大きくなる
- 1.の理由は、力をかけることで相手に穴が開きやすくなるためである
- 細胞傷害性T細胞は、穴を開ける場所に合わせて、力のかける場所・タイミングを調節している
細胞の表面に力をかければ穴が開きやすくなるイメージは湧くのですが(ピンと張った障子紙の方が張っていない時よりも破りやすい)、それを細胞で示しているのが斬新で、この論文を読んでいて非常に面白く感じました。今までの研究でも、本気で細胞がもつ物理的な“力”の意味を考えたものは本当に少ないと思います。そういう意味で、この論文は色々な研究の先駆けとなるように感じます。
実はこの細胞傷害性T細胞、最近医療研究業界でも注目されています。なぜなら、この細胞は「癌」をやっつける細胞だからです。人類の死亡原因第1位となって久しい癌ですが、大きくなってしまって手術ができなくなってしまうと手を出すことができないのが現状です。その背景には未だに癌の特効薬が存在しないことが挙げられます。最近、そんな状況の中でこの細胞傷害性T細胞に着目した薬が登場してきました。ニボルマブ(商品名:オプジーボ)と呼ばれる薬がそれに当たります。この薬は今までに開発されてきた癌に対する薬の中でもかなり癌に対してよく効く薬だと注目されています。今回のように細胞傷害性T細胞の新しい側面が解明され、このニボルマブに続く新たな良い癌の薬が世に出回ることを期待しています。
それにしてもT細胞は単細胞なのに、どうして人間の考えるような複雑なことを行えるのでしょうね。自然の神秘とは本当に深いと思いました。何はともあれ、私の体のT細胞には頑張ってもらって、私の鼻づまりを早く何とかして欲しいものです。
では今回はこのあたりで!最後まで呼んでくださりありがとうございました!