The Scientific Ocean

誰にでもわかりやすいように生命科学を解説しようとするアザラシのブログ。

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光で変身

おひさしぶりです、ぷにぷにアザラシです。最近めっきり寒くなりましたね。忘年会のシーズンにもなって、懐までも寒くなる今日この頃です。。さて、今日はこんな論文を紹介します!

A photoactivatable Cre–loxP recombination system for optogenetic genome engineering

昨今の生命科学の研究において欠かすことのできない技術に、「遺伝子操作」があります。遺伝子操作によりある1つの遺伝子を無くしたネズミや細胞を使って、研究者は日々新しいことを発見したり、自分の実験の信頼性を高めたりします。最近の遺伝子操作技術の進歩は凄まじく、昔よりも多くの動物でとても簡単に遺伝子を操作できるようになりました。
 最新の遺伝子操作の技術は、遺伝子にただ変化を加えることだけにとどまらず、遺伝子を「いつ」操作するのかさえも思いのままにすることができます。つまり、仔ネズミの時には普通のネズミと同じだけれども、大人になった時に「ある薬」を飲ませてやれば、そのネズミの体内で遺伝子が操作されて、薬を飲んだネズミは遺伝子を操作された遺伝子改変ネズミになる、ということです。
 この技術は本当にさまざまな場面で多用されるのですが、問題として体の「どこの」遺伝子を操作する、ということに関しては全く制御不能でした。つまり、「肝臓の遺伝子だけを操作したくて、胃の遺伝子はそのままにしたい」というような要望に応えることはかなり困難であったわけです。

今回の論文は、「どこの」遺伝子を操作する、という難題を見事解決したものです。

  1. 青い光で操ることのできる“Magnet”というタンパクに、遺伝子操作をする“Cre”タンパクを結合させることで、遺伝子操作を光で行うことを可能にした。
  2. 弱い光や、短時間しか光を当てなくても十分に遺伝子を操作することができた。
  3. ネズミを使った実験で、体の外から青い光を当てるだけでも十分に肝臓に対する遺伝子操作ができることを実証した。

この論文を見つけた時は「すげー!!」と叫びそうになりました。それくらい、この論文のインパクトは非常に大きいと思います。
 使用しているMagnetというタンパク質は本当に磁石のような動きをするタンパク質で、青い光を当てると“N極のタンパク”と“S極のタンパク”が結合する、という性質を持つものです。この論文の筆者らは、Creというタンパクを2つに切って、それぞれをこの磁石タンパクのNとSに1つずつひっつけています。そうすることで、光が無い時は2つにCreが分断されているのでうまく力を発揮できないのですが、光を当てた時はMagnetがひっつくので、分断されたCreもひっつき、元の力を発揮して、遺伝子を操作できるようになる、という仕組みです。
 この論文でさらにすごいのは3で、ネズミの体の外から光を当てるだけで、ネズミに何のストレスも傷も与えること無く遺伝子を操作することができる、という夢にまで見た技術を提供するものです。確かに体の外から光が届く範囲には限界があるでしょうし、その理由で対象になる臓器も限られてくるとは思いますが、今後この技術を使って研究する人が爆発的に増えると思います。

この論文は、自分の研究分野外で本当に感動した久しぶりの論文でした。是非ご興味のある方はどうぞ。

それでは今回はこの辺で失礼致します、読んで下さってありがとうございました!