体温を維持する2つの仕組み
ずいぶんとお久しぶりです。ぷにぷにアザラシです。やっと身辺が落ち着いてきましたので、久しぶりに更新しようと思います。本日の論文はこちら!
パッチクランプ(Patch Clamp)とは、細胞の電気を測るための実験方法です(電気生理学についての説明はこちら)。今回は、パッチクランプを、細胞ではなく、細胞の中にあるミトコンドリアに対して行った、という論文です。今回の紹介では、この部分はメインではないので簡単に書きましたが、実はこの実験はものすごく難しい技術で、こんな実験を出来るのは、世界でも2,3研究室しかないのではないでしょうか?難しい技術だからこそ、新しいことを発見できるのかも知れません。
Beige Adipocyteとは、ベージュ脂肪細胞という細胞の種類を指します。
“脂肪細胞”と言われると、皆さんは「太る」と想像されるのではないでしょうか?その反応は、半分あっていて半分間違っています。脂肪細胞は、大きく2つの種類に分かれます。褐色脂肪細胞と白色脂肪細胞です。白色脂肪細胞は、皆さんのご想像の通り、脂肪を蓄えるための細胞です。ですので、これが増えると太ります。では、褐色脂肪細胞の役割は何かと申しますと、熱を発することです。つまり、どちらかというと、褐色脂肪細胞が働けばそれだけ、痩せる、ということになります。で、この褐色脂肪細胞は、UCP-1(uncoupling protein 1)というタンパク質を使って熱を発する、ということが既に分かっています。
では、今回出てくるベージュ脂肪細胞とは何なのかと申しますと、これは白色脂肪細胞が変身して褐色脂肪細胞のようになった姿です。しかし、完全には褐色脂肪細胞になりきれませんので、ベージュ脂肪細胞というわけです。ちなみに、このベージュ脂肪細胞も役割は熱の産生で、UCP-1も持っています。
というわけで、「UCP-1をもっていれば熱産生が出来る」と、おそらく3,40年は信じられてきました。そう、この論文が出るまでは。本論文はそんな常識をあっさりと覆した論文になります。今回の主なポイントは以下の通りです。
- 今までに知られていたように、皮下脂肪にあるベージュ脂肪細胞は褐色脂肪細胞と同じような仕組みを持っている。
- 一方で、腹部にあるベージュ脂肪細胞は、UCP-1を全く持っていない
- 腹部脂肪にあるベージュ脂肪細胞は“無益クレアチン回路”という機能を使って熱を産生している
- 皮下脂肪にあるベージュ脂肪細胞も、一部は無益クレアチン回路に依存して熱を産生している
この発見は本当にすごくて、例えば今まで肥満を治療する薬を作るためには、「UCP-1を活性化すれば良い」という戦略しかなかったのに、「無益クレアチン回路を活性化すれば良い」という新しい戦略を使用できることを示しています。また、今までずっと常識だと思われていて、教科書にもしっかりと記載されていたことを、あっさりと覆したところも非常に素晴らしい点です。この発見はつまり、教科書を書き換えるレベルの成果だと言えます。いつか、こんな素晴らしい研究に出会いたいと感じました。
今日の紹介は以上になります。
読んでいただきまして、ありがとうございました!