The Scientific Ocean

誰にでもわかりやすいように生命科学を解説しようとするアザラシのブログ。

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オプジーボ、痛いところを突かれる、の巻

こんにちは、ぷにぷにアザラシです。今日は久しぶりに医学系の論文を紹介します。今回の論文はこちら!

PD-L1 inhibits acute and chronic pain by suppressing nociceptive neuron activity via PD-1

PD-L1やらPD-1やら、知らない名前だと思われる方も多いかも知れません。しかし、これらは現在非常にホットなタンパクです。

オプジーボ”。この名前を聞いたことのある方なら、いらっしゃるのではないでしょうか?オプジーボとは、小野薬品が開発した新しいタイプの抗がん剤です。この抗がん剤は、従来の抗がん剤のような「がん細胞をやっつける」薬ではなく、「身体の免疫力を使ってがんをやっつける」という全く新しい仕組みを持つ薬で、現在とても注目されています。また、この抗がん剤は、1回の投与あたり100万円以上のお金が必要で、1回の治療あたり3000万円以上必要になり、医療費を圧迫するとして大きな問題を生んだ薬でもあります(現在では薬の値段は抑えられていますが、それでもまだまだ高価な薬です)。

話を戻して、それではなぜ、オプジーボは身体の免疫力を高めることが出来るのでしょうか?これは、がん細胞の生態が関与します。がん細胞は、普通の細胞ではないので、通常ならば免疫細胞によって発見され、排除されます。しかし、がん細胞はある日、その免疫細胞の機能を抑える仕組みを獲得します。その仕組みの正体こそ、冒頭で紹介したPD-L1です。がん細胞から放出されたPD-L1は免疫細胞にあるPD-1に結合することで、免疫細胞の機能を弱めてしまうのです。では、オブジーボは何をしているのかというと、このPD-L1がPD-1に結合するのを邪魔することで、がん細胞が免疫細胞の機能を抑えないようにしています。その結果、免疫力が高まって、がんはやっつけられる、というわけです。

そんな夢のような薬のオプジーボなのですが、とある薬と併用すると、運が悪いと死んでしまったりするといった、副作用も報告されています。まだまだ新しい薬ですので、そういった予想外の事態も起きるわけです。今回の論文は、そんな予想外の事態を新たに提示し、警鐘をならすものです。

  1. PD-L1をネズミに投与すると痛みがおさまる
  2. PD-1は免疫細胞だけではなく、感覚神経にも存在する
  3. PD-L1は感覚神経のPD-1に作用して、SHP-1というタンパクを介し、神経が痛みシグナルを伝達することを抑制する(TREK2というカリウムチャネルを介する)
  4. オプジーボ(化合物名:ニボルマブ)を、がんを移植したネズミに投与すると、痛みが強くなる

端的に述べると、PD-L1は痛みを抑える仕組みに関与しているため、PD-L1の働きを抑えてしまうオプジーボは、痛みを増強してしまう、ということです。

現在、オプジーボを用いている患者さんが、他の患者さんよりも痛みを強く感じているというような噂は、少なくとも私は聞いたことがありませんが、少し注意する必要があるのかもしれません。今後の動向が気になる論文でした。

オプジーボは、実は日本で発明された数少ない薬のひとつです。そしてなんと、ノーベル賞を取るのではないかとも言われている薬なのです。なので、個人的にはもっと活躍して欲しいと思っています。今回の報告は少し残念ですが、例えば痛みが出る患者・出ない患者など、区別できるようになれば、安全にこのお薬を使っていけるのではないかと思います。そのような今後の研究に期待したいです。

それでは、今回はこのあたりで。最後まで読んで下さり、ありがとうございました!