The Scientific Ocean

誰にでもわかりやすいように生命科学を解説しようとするアザラシのブログ。

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痛みも気から?

どうも、ぷにぷにアザラシです。今回紹介する論文はこちらです!


ノシーボ効果」という言葉をご存じでしょうか?あまり有名ではないかもしれません。それでは、「プラシーボ効果」はどうでしょう?こちらは、多くの方が耳にしたことがあるのではないでしょうか?プラシーボ効果とは、「効果の無い薬(プラシーボ)を飲んでいるのに、あたかも効果があるかのように症状の改善などが観察されること」を指します。ノシーボ効果とは、プラシーボ効果とは逆で、「効果の無い薬(プラシーボ)を飲んでいるのに、あたかも毒のように副作用など体に悪い症状が表れること」を指します。

プラシーボ効果もノシーボ効果も、簡単に言えば「思い込み」です。ですので、「思い込みなんて気にしなければいいじゃん」と思う方もいるかも知れません。しかし、この思い込みが非常に問題になるケースがあります。それは、薬の治験(臨床試験)です。薬の治験では、その試験で試す新薬が、プラシーボ(または新薬と似たような薬)よりも効果が高いことを示す必要があります。ですので、プラシーボ効果があると、プラシーボを飲んでいる被験者でも治療効果が確認されてしまい、本当の新薬の効果を判定できなくなります(差が無くなる)。逆に新薬にノシーボ効果があると、新薬を飲んでいる被験者で“嘘の”副作用が出てしまい、せっかくの良い新薬が取りやめになってしまうこともあります。このようなことは極力防ぐことが大切なのです。

しかし、一般的に治験では、その薬を飲む被験者はもちろん、それを投薬する医療従事者さえも、その被験者の飲む薬が新薬なのかプラシーボなのか、わからないように工夫されて試験が行われます。ですので、一体何がプラシーボ効果やノシーボ効果を助長するのか、それを解決するのは非常に難しい問題です。今回の論文ではそのうちノシーボ効果でおこる痛みについて、とてもユニークな点に着目しました。
 
それはなんと、「薬のラベル」です。今回の論文の著者達は、プラシーボを用いて、薬のラベルだけ安っぽいものと高そうなものを2つデザインして実験しました。すると、高そうなラベルのものを使った時に、ノシーボ効果で痛みが起きる頻度が非常に増大することを発見したのです!
 
さらにこの論文では、MRIという診断術を用いて、脳や脊髄の活動を捉え、なぜ痛みが強くなるのかを研究し、「下行性抑制系」とよばれる痛みの制御システムがノシーボ効果による痛みに関与することを突き止めました。下行性抑制系とは、「脳が痛みを抑えるために、脳(上)から脊髄(下)へ信号を伝える仕組みのこと」をいいます。例えば、大切なサッカーの試合の途中で足を途中でねんざしても、その時には痛みを感じず試合に集中できて、試合が終わった後に痛みが増えてくる、という事例を想像できるかと思います。これは、脳がサッカーの試合中に興奮していて、下行性抑制系を介して痛みを抑えているためです。今回の論文では、高そうなラベルのものを見た時に、この下行性抑制系が働きにくくなって、痛みが強くなるのではないか、ということを明らかにしました。
 
というわけで皆さん。薬のラベルが高そうでも安心して使うように、自分に言い聞かせましょうね!
それでは今回はこのあたりで。最後まで読んで下さりありがとうございました!