The Scientific Ocean

誰にでもわかりやすいように生命科学を解説しようとするアザラシのブログ。

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母親のせいで臆病者に!?

ずいぶんとお久しぶりになってしまいました。もう12月ですね!早いものです。さて、ずいぶんと寒くなってきましたが、寒さに負けないように元気に紹介しようと思います!今回の論文はこちら!

Maternal Brain TNF-a Programs Innate Fear in the Offspring

題名を訳せば、「母親の脳のTNF-aが子供の生まれながらにして持つ恐怖心をプログラムする」、となります。言い換えれば、「母親の脳の中のTNF-aの量がわかれば、そこから生まれた子供がどれくらい臆病者か、子供を見なくても予測できる」、ということです。

 

・・・すごくないですか!?

 

というわけで、背景知識の紹介をします 笑

まずTNF-aというもの、これはTumor Necrosis Factor-alphaの略称で、簡単に言うとガン(Tumor)を殺すために免疫細胞が分泌するタンパク質です。基本的には、白血球(マクロファージ等)から出ているものですが、実は脳の中でも“グリア細胞”とよばれる細胞が分泌していることがわかっています。脳の中のTNF-aは、ガンを殺すためというよりもむしろ、神経細胞に働いて、神経細胞同士がしっかりと繋がり、脳として機能することを助ける役割を果たしています。

現在の技術では、このTNF-aを体内で全く作ることができないネズミを作ることができます。このネズミは、免疫機能に異常があることは知られているのですが、案外、脳の機能(感情や記憶能力など)には変化がないことが知られています。ですので、脳のTNF-aが本当に大事なのかどうかが、わかっていませんでした。

この論文の研究では、そんなTNF-aを持たないネズミの子供に着目して、とても面白い発見をしています。あらすじを述べれば、

  1. TNF-aを持たない母ネズミから生まれた子供は、恐怖心が弱いことを発見した
  2. 免疫細胞の分泌するTNF-aは、1.の結果には関与しなかった
  3. 妊娠中に脳の中で分泌されるTNF-aが、1.の結果に大切であることを見出した

実は、脳の中のTNF-aの量がどういうときに変わるのかという点に関しては、既に研究されています。ネズミが活発に運動した場合にはTNF-aの量が少なくなり、ネズミがストレスを感じるとTNF-aの量が多くなるのです。今回の報告と合わせると、母ネズミが妊娠中に活発に運動していれば、生まれてくる子供は恐怖心が弱く、逆に母ネズミが妊娠中に大きなストレスを感じれば、生まれてくる子供は臆病者になる、ということが予想されます。

これは自然界では非常に大事で、母ネズミが妊娠していても自由に動けるくらい安全な環境であれば、生まれてくる子供は恐怖心(=警戒心)が弱くても問題なく、えさなどをより効率よく探すことができるのに対して、母ネズミが妊娠中にストレスを感じるくらいに危険な環境であれば、生まれてくる子供は強い警戒心を持っていなければ、すぐに捕食されてしまいます。そのような、うまく子孫を残すための自然界の仕組みとして、この脳のTNF-aは機能しているのかも知れません。

この論文はネズミの論文なので、ヒトでもこうなるのかどうかはわかりません。しかし、絶対に違うとは言い切れません。ですので、女性の方々、もしも妊娠したら、適度な運動を心がけましょう。そして男性の方々、もしも自分の奥さんが妊娠したら、舅小姑問題で奥さんがストレスを感じないように、うまく立ち回ってあげて下さいね!笑

 

それでは今回はこのあたりで。最後まで読んで下さってありがとうございました!