The Scientific Ocean

誰にでもわかりやすいように生命科学を解説しようとするアザラシのブログ。

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みんな違ってるのにみんな同じで良いの?

もうすぐ今年が終わってしまいますが、いかがお過ごしでしょうか?今年の最後になりそうな今回、紹介する論文はこちらになります!

Pharmacogenomics of GPCR Drug Targets

今日、私たちが病気にかかった時に飲んでいる薬。それがどうして効くかというと、薬の中に入っている有効成分(通常1成分/1つの薬)が、体の中の特定のタンパク質に結合して、そのタンパク質の機能を変えてしまうからです。インフルエンザになったらタミフル、歯を抜いて痛かったらロキソニン、筋肉痛にはジクロフェナク、など病気や症状によって使う薬が違うのも、病気毎に重要なタンパク質が異なるためです。そのため、現在世の中にあるさまざまな薬は、「どのジャンルのタンパク質と結合するか」という指標で分類することもできます。

タイトルにあるGPCRとは、G Protein Coupled Receptorというタンパク質のジャンルの名前で、興奮した時に出るアドレナリンや幸せホルモンとして有名なセロトニンの結合するタンパク質などが含まれています。このことから想像できるように、GPCRは体の機能にとって重要な役割を果たすことが多いために、病気の症状に密接に関わることも数多くあります。そのため、薬の結合する相手としてもよく採用され、実際、全体の約34%の薬がこのGPCRを標的に作られています

さて、今回のタイトルにあるPharmacogenomics。これは「薬理ゲノム学」とも呼ばれる学問で、薬の効き目と遺伝情報の関係性を紐解くことを目的としています。私たちの遺伝子は、もちろん一人一人違います。遺伝子とは、タンパク質の設計図です。もちろん、GPCRもその例外ではありません。もし、GPCRの形が個人個人で少し違って、薬との結合の強さが変わっていたら、どうなるのでしょうか?そんな疑問に立ち向かったのがこの論文です。

  1. 68496人を対象にデータを集めた。
  2. μ 受容体(モルヒネの結合するタンパク質)などに対する個人的な変異で、薬の効果が変わったり副作用が出ることを、データと実際の実験から確かめた。

まずすごいのがデータの量。ほぼ7万人!これをしっかりと解析して、2.にあるように、どの変異がどのような薬の効果と結びつくかまで証明した論文は、ほとんど無いのではないのでしょうか?この論文の抄録にも書いてありますが、このような「遺伝子情報と薬の効果を結びつける」研究は、薬を飲む前にある程度の薬の効果を推定することや、よりよい薬の選択を行うためには欠かせないものです。このようなデータが集まって、いつの日か、同じ病気なのに一人一人別々の薬を飲むような、究極の「テーラーメイド医療」が実現されるかも知れません。こういう夢のあるデータ解析の研究が今後より一層発展して、よりよい推測などが実現することを祈っています。

 

それでは今日はこのあたりで!最後まで読んでくださりありがとうございました!