The Scientific Ocean

誰にでもわかりやすいように生命科学を解説しようとするアザラシのブログ。

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やかんの熱を感じる仕組み

お久しぶりです、アザラシです。ブログを更新しない間に、もうすぐ春ですね。春は暖かい程度ですが、今日は「やけどするくらいに熱い」温度に関する論文を紹介します。今回紹介する論文はこちら!

 

A TRP channel trio mediates acute noxious heat sensing

www.nature.com

 

タイトルでも示しましたが、沸騰したお湯の入っているやかん等を知らずに触った時、「あつっ!!」と思うと同時に手を引っ込めるという動作は、誰もが経験したことのあるものだと思います。この動作は細かく分類すれば、以下のように分けられるでしょう;

  1. やかんの熱を手が感じる
  2. 「やかんが熱い」という情報が電気信号として手から背中(脊髄)に伝わる
  3. 脊髄から脳へ電気信号が送られると同時に、腕の筋肉に対して収縮するように電気信号が送られる
  4. 筋肉が収縮して手がやかんから離れる
  5. ほぼ同時に、脳が送られてきた電気信号を「あつっ!!」という感覚に変換する

3.から4.の動作は、いわゆる「脊髄反射」と呼ばれるものです。耳にしたことのある方も多いと思いますし、ここでは脊髄反射は話題ではないので割愛します。上の動作でのキーワードは、電気信号です。人間に限らず、多くの動物では電気信号を介して、体の各部位と脳との情報伝達を行います。この情報伝達を担うものが、「神経」です。

では、1. について詳しく見ていきましょう。1では、「やかんの熱が感覚神経に電気信号として伝わる」ということが起こっています。つまりここでは、熱が電気信号に変換されなければならないのです。どうやればそんなことができるのでしょうか?それがこの論文の本題です。

感覚神経は「イオンチャネル」と呼ばれるセンサーを持っています。これにはさまざまなものがあって、熱や冷たさ、酸っぱさ(酸)、何かに触った事を感じるものなどがありますが、総じて、イオンチャネルは外からの刺激を電気信号へ変換するという性質を持ちます。ですので、やかんの熱は何らかの「熱感受性イオンチャネルセンサー」を刺激することで、感覚神経に電気信号を伝えるわけです。

熱感受性イオンチャネルセンサーは、多数見つかっていますが、結局どれがどの程度大事なのかということについては、実は今まではっきりとしていませんでした。今回の論文では、1つずつ熱感受性イオンチャネルセンサーの機能を確かめ、3つの熱感受性イオンチャネルセンサーが「やかんの熱」を感じることに必要十分であることを突き止めました。具体的な内容は以下になります。

  1. TRPV1, TRPM3, TRPA1(トリップブイワン、トリップエムスリー、トリップエイワン)という3つの熱感受性イオンチャネルセンサーを失ったネズミは、やけどするほどの高温を感じることができないことを明らかにした

  2. しかしこれら3つの熱センサーのうち、1つでも持っていれば、ネズミはやけどするほどの高温を感じることができた

  3. 3つの熱感受性イオンチャネルセンサーを失ったネズミは、熱以外の痛い刺激(痛いほどの冷たさ、つねられた時の痛み)に対しては正常な反応を示した

このことを明らかにしたベルギーの研究チームは、3つも熱感受性イオンチャネルセンサーがある理由を「フェイルセーフ機能(1つがダメになっても何とか対応するための機能)」だとしています。確かに、やけどするような高温から逃げる仕組みが簡単に失われるようでは、そのネズミは簡単にやけどをしてしまい、場合によっては死んでしまう可能性も高くなってしまいそうです。進化の過程で、3つの熱感受性イオンチャネルセンサーを獲得したのかも知れません。

この論文のおかげで、長らく不明瞭だった「熱いやかんを触って感じる」痛みを感じるメカニズムが明らかにされました。実は、未だに「氷冷水に手を入れた時に感じる」痛みや、「つねられた時」の痛み、「切り傷」の痛みなど、多くの痛みをどうして感じることができるのか、全く分かっておりません。それは、これらの痛みに対するイオンチャネルセンサーが見つかっていないからです。今後、他の痛みを感じる機構がどんどん分かってくることを私は楽しみにしています。

 

それではこのあたりで失礼致します、最後まで読んで下さりありがとうございました!

 

p.s.

ちなみに、TRPV1には他にも有名な機能があります。それは“トウガラシセンサー”です。トウガラシを食べて感じる辛さ、熱さと似ていると思いませんか?案外、似たような感覚だと思う理由は、同じセンサーを介して感じてしまっているために、脳が判別できていないのかも知れませんね。