The Scientific Ocean

誰にでもわかりやすいように生命科学を解説しようとするアザラシのブログ。

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完璧な鎮痛薬?!

ずいぶんとお久しぶりです。ぷにぷにアザラシです。

最近紹介する論文の方向性を見失っていたのですが、このブログをご覧になる方の中には、薬剤師の方もそこそこ多いのでは?と感じたので、今回はこんな論文を紹介します。

stm.sciencemag.org

 

ご存じの方もいらっしゃるかも知れません。これは先日和歌山県医大でプレスリリースがあった研究発表の、大元の論文になります(プレスリリースはこちら)。

オピオイドとは

オピオイドとは、麻薬系鎮痛薬であるモルヒネフェンタニルオキシコドンなどを指します。基本的には、ロキソニン(ロキソプロフェン)やリリカ(プレガバリン)といった、他の薬理機序を持つ鎮痛薬では治らないような強い痛みに対してだけ用いられます。

 

基本的にオピオイドは、µ(ミュー)オピオイド受容体と呼ばれるタンパクにひっついて効果を発揮します。µオピオイド受容体は、脳や脊髄の中の、痛みに関する神経細胞に生えていて、こういった神経の活動を抑制するため、全身の痛みを抑えることができるのです。

 

しかし、オピオイドには多くの副作用があります。有名なのは、吐き気・便秘・呼吸抑制です。なぜ副作用があるのでしょうか?これは、µオピオイド受容体が、脳の吐き気を止める神経や、腸の動きを操る神経、呼吸を司る神経にも生えているためです。オピオイドがこういったµオピオイド受容体に働いて、神経の活動を抑えてしまうので、吐き気や便秘、呼吸抑制になってしまうのです。

 

また、もうひとつ大きな問題として、依存性があります。麻薬という名の通り、オピオイド乱用すると、薬物依存になってしまいます。

(はっきり言いたいのですが、痛みの強い患者さんが、しっかりと医療現場でコントロールされながらオピオイドを使用した場合、薬物依存に陥ることは絶対にありません(基礎科学的な実験で、薬物依存にならない理由まで既にわかっています)本当にどうしようもない痛みがある場合は、お医者さんに相談してから、安心して使って下さい)

 

そういった経緯から、日本では特に、使いたくないという患者さんも多いというのが現状です。

 

今回の発見

今回この研究では、新しく“AT-121”という薬を生み出しました。このAT-121は上記のµオピオイド受容体の他に、NOP(ノシセプチン)受容体にも働きかけることができます(正確には、両方の受容体に対する部分作動薬)。このNOP受容体というのはすごくて、オピオイドの主作用である鎮痛作用を増強する一方で、オピオイドの副作用である呼吸抑制や薬物依存を減らすことができます

この論文上の研究者たちは、実際にサルを使った実験で、AT-121の鎮痛作用が強いこと、副作用がほとんどないことを示しています。

 

感想

まず、サルを使って実験している時点で、既にものすごい研究です(基本的にはネズミを使うので)。その上で、副作用が少なく、鎮痛効果の高い新薬を創成しているところは、もはや脱帽です(この化合物のデザイン方法も、本当に目を見張るものがあります)。

便秘や嘔吐に関してはおそらくサルでは実験が厳しいでしょうから、今回はデータが示されていませんが、このあたりの副作用も少ないのであれば、本当に夢のような鎮痛薬となってくれるかと思います。早く治験に進んで欲しいものです。

痛みの研究領域では、最近どんどん新しいことが見つかっているので、この研究のように、今後は臨床応用の可能性を示すような研究がどんどん出てきて欲しい、と感じています。鎮痛剤も結局、オピオイドを越える新薬はまだ出ていないですもんね。この化合物の未来を、私は本当に楽しみにしています・・・他人事のように書いてしまいましたが 笑。

 

久しぶりなのに書き方が雑ですが(反省)、このあたりで終わろうと思います。ここまで読んで頂きありがとうございました!