The Scientific Ocean

誰にでもわかりやすいように生命科学を解説しようとするアザラシのブログ。

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IgDの正体、見破ったり

こんにちは、ぷにぷにアザラシです。今回はこの論文を紹介します!

(以下画像はリンクです)

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背景

私たちの身体が細菌などから身を守るための道具のひとつとして、抗体が挙げられます。抗体とは簡単に言うと以下のような構造のタンパク質で、

 

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基本的には、特定のタンパク質にFab領域でひっついて、Fc領域を使って免疫細胞にひっついて、身体の中の免疫応答を助ける働きをします(他にもありますが割愛)。この、おしりのFcの形によって、抗体は種類分けされるのが普通で、IgM, IgG, IgA, IgE, IgDと 5 種類の抗体が存在することがわかっています。みんな抗体ですが、それぞれ役割が全く違っていて、IgMはある病原体に初めて感染したときに最初に使われますし、IgGは2回目以降に感染したときに迅速に効率よく使われますし、IgAは母乳や唾液など分泌液内で働きますし、IgEはアレルギーの時に力を発揮します。

しかし、IgDに関してはいまいちその役割がよくわかっていませんでした。IgDについて唯一わかっていたことは、IgMと同じような時期に出てくる、ということです(下図)。しかしIgMほどには免疫機能に役立っていないし、最終的には引っ込んでしまうし、なぜ出てくるのか不明だったのです。

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(図:https://www.nature.com/articles/ncpneuro0901より)

今回の研究内容

今回の発見を羅列すると、

  • IgD産生は、食物アレルゲンなど水に溶けやすい環境中のアレルゲンで誘導される
  • IgDは、好塩基球上のCD44ガレクチン9と呼ばれるタンパクに認識される
  • IgDが結合した好塩基球は、Th2誘導サイトカイン(IL4, IL5, IL13)を産生する
  • 上記サイトカインで誘導されたTh2細胞は、IgG1およびIgE産生B細胞を誘導する
  • IgDが結合した好塩基球は、IgEによって脱顆粒しない(アレルギー誘導しない)

です。一番大きな発見は、2つ目の「CD44とガレクチン9がIgDを認識する、です。なぜなら、他の4種類の抗体とは違って、IgDを認識するタンパクは今まで発見されていなかったためです。それに加えて、IgDによって起きる体内の免疫応答をしっかりと調べ上げており、さすがはImmunityとしか言いようがありません。 

感想

今回の報告で、IgDの認識タンパクが同定されましたので、次はこの認識タンパクを発現している細胞の探索や、その機能評価が行われるでしょう。また、上記発見 4 や 5 にからめて、食物アレルギーの発生機序や、それをどうやって治療すべきかといった知見も今後得られてくるだろうと感じました。食物アレルギーはまだまだ謎が多い疾患のひとつだと思いますし、私も食物アレルギーがありますので、いつかはこういうものが治療されて、安心して今まで食べられなかった物を食べられるようになりたい、と感じます。


短いですが、以上になります。
読んで頂きまして、ありがとうございました!