ミトコンドリアを編集する
ぷにぷにアザラシです。今日はミトコンドリアゲノム編集に成功した以下の2本の論文の背景を解説します!
ミトコンドリアとは
ミトコンドリアとは、細胞の中にある小器官のことで、基本的にはエネルギー(ATP)産生の場として知られています。ミトコンドリアは、太古の昔に、細胞の基となった生物に、ミトコンドリアの基となった生物が共生したことがきっかけで出来上がったという説が有力で、その名残もあって、ミトコンドリアには、細胞とは別の遺伝情報が含まれています。それをミトコンドリアDNAと呼びます。
ミトコンドリアは1つの細胞当たり数十〜数百存在し、1つのミトコンドリアあたり2〜10個程度のミトコンドリアDNAが存在するため、1つの細胞当たり、ミトコンドリアDNAは数十〜数千あるとされています(こんなデータベースもあります)。
ミトコンドリア病とは
ミトコンドリアDNAに載っている情報のほとんどは、エネルギー産生にとても重要なタンパク質(電子伝達系)の作成に関するものです。なので、このミトコンドリアDNAの情報に誤りがあり、誤りのあるミトコンドリアDNAがどんどんと増えてくると、私たちの身体はうまくエネルギーを作れなくなり、病気になります。こうして起きる病気の総称を、ミトコンドリア病と呼び、難病に指定されています(他の原因もあります、詳しくは難病情報センターのこのページを見て下さい)。
新しい遺伝子操作技術
近年、遺伝子(つまりDNA)を操作・編集する技術の革新は凄まじく、昔は半年は最低でもかかっていたといわれる遺伝子改変マウスを、もはや受精卵だけなら2週間で作成できるまでになりました(このメーカーなど)。その驚くべき進歩の背景には、以下のような新しい遺伝子編集技術が開発された経緯があります。
- CRISPR-Cas9
- TALEN
- ZFN
詳しいことは割愛しますが、これらの技術のおかげで、細胞の核にある遺伝情報はかなり編集しやすくなりました。
しかし、ミトコンドリアDNAは核DNAとは違って、同じ遺伝情報が細胞内に非常にたくさんあること、ミトコンドリアの中へ上記技術に必要なタンパク質を送り込むのが難しいことなどから、今まで上記技術をミトコンドリアDNAへ応用した研究はあまりありませんでした。
今回の発見・考察
今回の2つの論文では、ZFNおよびTALENをミトコンドリアへ送り込む技術を開発し、それをミトコンドリア病モデルマウスに用いました。すると、ミトコンドリアDNAへ遺伝子操作を行うことで、ミトコンドリア病が改善するというすばらしい結果を得ることができました。
もちろん、ミトコンドリア病患者に適応するには数々の試練がまだ残されていますが、ミトコンドリア病に対する治療薬は今のところ存在しないため、少し明るい未来が見えたのではないでしょうか?
ミトコンドリア病はまだまだなぜ起きるのかすらわかっていない病気ですので(なぜ誤りのあるミトコンドリアDNAが増えてしまうのか、正しいDNAと誤りのあるDNAをミトコンドリアは区別できているのか、など)、今後そのメカニズムが明らかになってゆくと同時に、上記のような遺伝子治療を臨床でも用いられる日が来ることを、私は楽しみにしています。
以上になります、最後まで読んで下さりありがとうございました!