The Scientific Ocean

誰にでもわかりやすいように生命科学を解説しようとするアザラシのブログ。

中の人(アザラシ)のTwitterは@puni2azarashiです。 このブログの趣旨はこちらを参照

辛さは何倍?

こんにちは、ぷにぷにアザラシです。

最近、Twitterでこんな発言を目にしました。

辛いカレーが好きなので、お初のカレー屋さんに行くと大抵は3倍辛くらいで頼む。そこの辛さの基準が分からないから、最初はこれくらい。で、「なんだ全然いけるじゃん」と思ったら、次は10倍くらい頼むと、まあ〝感覚的に辛さ2倍〟くらいかなと感じている

 

実は私、昔 “辛みセンサー” の研究をしていたので、ここはばっちりお応えしたいと思います!笑

 

人はどうして辛さを感じるのか 

それは、舌に辛みセンサー、通称  TRPV1  というタンパクが存在しているからです。TRPV1は、辛さの正体である カプサイシン と結合して、電気的な信号を生み出します。それが脳に伝わって、辛い!と感じるわけです。

 

ということで、辛さの強さは、TRPV1がどれくらいカプサイシンに反応するか、に依存します。それでは、TRPV1とカプサイシンの関係はどんな感じなのでしょうか?というと、こんな感じになります。

f:id:punipuniazarashi:20180918100232p:plain

(値は実験値ではありません、論文データを基に適当に作っています)

横軸を濃度の対数、縦軸を反応率にすると、こんな感じの関係になります。

カプサイシンが10の-6乗 mol/L(1マイクロモル)で、半分のTRPV1が活性化します。

 

この図からわかるように、濃度が高すぎると既に天井に達していて、それ以上は増えませんし、逆に低すぎればほとんど感知することができません

(このカーブは生物学的にはとても大事で、シグモイド曲線といいます)

 

 結論

というわけで、「辛さは単純にカプサイシンの濃度には比例しない、どれくらい辛くなるかは、はじめのカプサイシンの濃度による」というのが、アザラシの答えです。

・・・なんか中途半端な答えですいません、でもこれが事実です 笑

 

ちなみに、カプサイシンの濃度が 0.3 マイクロモルを越えると、辛さを示す注意書きが必要なようです(農水省このページ参照)。ということは「辛い!」と感じる程度では、まだTRPV1は半分も活性化していないということですね。逆に全部活性化したらどれくらい辛いことやら(痛そうです)。。。

 

ちなみに

辛いもの、食べているとだんだんと慣れてきますよね?

実はこれは、辛いものを食べすぎると、TRPV1センサー本体が舌の表面から無くなってしまうのです!だから、辛いものをいくら食べても、既に辛みセンサーが無いので、辛さを感じることができない、というわけです。TRPV1がずっと活性化していると、TRPV1を持つ細胞は死んでしまうので、細胞が自分を守るためにそうするのだと思います。本当の理由は神様しか知りえませんが。。。

 

 

以上になります!読んで下さってありがとうございました!

 

完璧な鎮痛薬?!

ずいぶんとお久しぶりです。ぷにぷにアザラシです。

最近紹介する論文の方向性を見失っていたのですが、このブログをご覧になる方の中には、薬剤師の方もそこそこ多いのでは?と感じたので、今回はこんな論文を紹介します。

stm.sciencemag.org

 

ご存じの方もいらっしゃるかも知れません。これは先日和歌山県医大でプレスリリースがあった研究発表の、大元の論文になります(プレスリリースはこちら)。

オピオイドとは

オピオイドとは、麻薬系鎮痛薬であるモルヒネフェンタニルオキシコドンなどを指します。基本的には、ロキソニン(ロキソプロフェン)やリリカ(プレガバリン)といった、他の薬理機序を持つ鎮痛薬では治らないような強い痛みに対してだけ用いられます。

 

基本的にオピオイドは、µ(ミュー)オピオイド受容体と呼ばれるタンパクにひっついて効果を発揮します。µオピオイド受容体は、脳や脊髄の中の、痛みに関する神経細胞に生えていて、こういった神経の活動を抑制するため、全身の痛みを抑えることができるのです。

 

しかし、オピオイドには多くの副作用があります。有名なのは、吐き気・便秘・呼吸抑制です。なぜ副作用があるのでしょうか?これは、µオピオイド受容体が、脳の吐き気を止める神経や、腸の動きを操る神経、呼吸を司る神経にも生えているためです。オピオイドがこういったµオピオイド受容体に働いて、神経の活動を抑えてしまうので、吐き気や便秘、呼吸抑制になってしまうのです。

 

また、もうひとつ大きな問題として、依存性があります。麻薬という名の通り、オピオイド乱用すると、薬物依存になってしまいます。

(はっきり言いたいのですが、痛みの強い患者さんが、しっかりと医療現場でコントロールされながらオピオイドを使用した場合、薬物依存に陥ることは絶対にありません(基礎科学的な実験で、薬物依存にならない理由まで既にわかっています)本当にどうしようもない痛みがある場合は、お医者さんに相談してから、安心して使って下さい)

 

そういった経緯から、日本では特に、使いたくないという患者さんも多いというのが現状です。

 

今回の発見

今回この研究では、新しく“AT-121”という薬を生み出しました。このAT-121は上記のµオピオイド受容体の他に、NOP(ノシセプチン)受容体にも働きかけることができます(正確には、両方の受容体に対する部分作動薬)。このNOP受容体というのはすごくて、オピオイドの主作用である鎮痛作用を増強する一方で、オピオイドの副作用である呼吸抑制や薬物依存を減らすことができます

この論文上の研究者たちは、実際にサルを使った実験で、AT-121の鎮痛作用が強いこと、副作用がほとんどないことを示しています。

 

感想

まず、サルを使って実験している時点で、既にものすごい研究です(基本的にはネズミを使うので)。その上で、副作用が少なく、鎮痛効果の高い新薬を創成しているところは、もはや脱帽です(この化合物のデザイン方法も、本当に目を見張るものがあります)。

便秘や嘔吐に関してはおそらくサルでは実験が厳しいでしょうから、今回はデータが示されていませんが、このあたりの副作用も少ないのであれば、本当に夢のような鎮痛薬となってくれるかと思います。早く治験に進んで欲しいものです。

痛みの研究領域では、最近どんどん新しいことが見つかっているので、この研究のように、今後は臨床応用の可能性を示すような研究がどんどん出てきて欲しい、と感じています。鎮痛剤も結局、オピオイドを越える新薬はまだ出ていないですもんね。この化合物の未来を、私は本当に楽しみにしています・・・他人事のように書いてしまいましたが 笑。

 

久しぶりなのに書き方が雑ですが(反省)、このあたりで終わろうと思います。ここまで読んで頂きありがとうございました!

子宮頸癌ワクチンの論文の処遇について

ずいぶんと久しぶりになりました。ぷにぷにアザラシです。
最近めっきりサボってしまっていました。。。今回も論文紹介はできないのですが、
最近twitterで見かけた記事に対して、自分の意見を書いてみようと思い、今回の投稿に至りました。

今回気になったのは子宮頸癌ワクチン」に関するScientific reportに掲載された論文のリトラクト(掲載削除)に関してです。詳しくは以下のリンクに書いてあります。

note.mu

 

本論文はこちらです。

www.nature.com

 


はじめに断っておきますが、私はまだ若手研究者ではありますが、一応アカデミックに身をおいて研究をしている身ですので、研究が論文化されるまでの過程について、論文のことについて、全くの素人ではありません。また、今回の記事は、特定の人物や団体を、否定したり肯定したりするものではありません。その他、この研究者達が動物委員会の申請を通していなかったなど、何か他にも問題があるのかも知れませんが、今回はこのリトラクト(およびこの論文の研究)についてのみ、意見を述べさせて頂きます。

 

私は、今回のリトラクトは、少し行きすぎているのではないか、と感じました。

通常リトラクトとは、件の小保方さんの時のように、データの改ざん等、再現が全く取れない「嘘」が含まれている論文に対して行われるもののはずです。しかし、今回のリトラクトは、投稿されたデータに「嘘」が見つかったわけではなく、「HPVワクチンの副作用モデルとしては、実験計画が良くない」という理由によるものです。主には、

  1. HPVワクチンだけではなく、百日咳毒素も投与している
  2. HPVワクチンの投与量が多すぎる

でしょうか。これらについて、以下に私の意見を述べます。

 

1.について

百日咳毒素という名前なので、さぞかし強烈な毒、という印象がありますが、実際にはこれ単体でマウスが病気になる訳ではありません。実際にこの論文の図1(Fig. 1)でも、ちゃんと百日咳毒素だけを投与したマウスを用意して、他と比較しています。このFig. 1からわかるように、確かに百日咳毒素だけを投与したマウスや、HPVワクチンだけを投与したマウスではほとんど行動異常が出ない一方で、HPVワクチンと百日咳毒素を両方投与したマウスでは、行動異常が観察されやすい、ということがわかります。

 

2.について

人に投与する時は、0.5 mLを3回(合計1.5 mL)、という方法を取るようです。一方、今回の論文では0.1 mLを5回に分けて(合計0.1 mL)投与しているようです。基本的に薬を投与する時は体重をベースに用量を計算することが多いので、体重比較をしてみましょう。
人は女性の10代が主な対象ですので、平均を取って15才日本人女性の平均体重である51.6 kg(ここから参照)、マウスは11週齢なのでだいたい25 g(0.025 kg)くらいだとすると、(0.1/0.025) ÷ (1.5/51.6) = 137.6 なのでおおよそ140倍程度多い量を投与していたことになります。

 

これらを鑑みると、確かに、ヒトがHPVワクチンを投与された際の状況と、今回のマウスでの実験の状況とは、大きく異なることがわかります。

 

しかし、筆者たちもこのことは既に気付いていて、論文の要旨にも以下のように記載されています。

 

 These data suggested that HPV-vaccinated donners that are susceptible to the HPV vaccine might develop HANS under certain environmental factors. These results will give us the new insight into the murine pathological model of HANS and help us to find a way to treat of patients suffering from HANS.

(これらのデータは、HPVワクチンを投与された人のうちHPVワクチンに敏感な人は、特定の環境因子が揃えば、HANS*1になりうることを示している。これらの結果は、マウスを用いたHANS病態モデルに対する新しい知見を示し、HANSに苦しむ患者を救う手立てを見つける機会を私たちに与えてくれるだろう)

 

私が今回のこの問題で、意見を述べたいと思ったのは、「基礎科学をベースにした論文の結果からすぐに臨床現場のことを解釈するのは無謀だし、逆に、臨床現場に即していないからといって基礎科学的な研究を全否定するのはおかしい」と感じたためです。

 

百日咳毒素はよく使われる免疫活性化剤ですが、何の環境因子の代わりになるのか、それは未だに解明されていません。しかし、同じように百日咳毒素を使って、マウスで病気のモデルを作成し、創薬まで成功した病気もあります。それは多発性硬化症です。

多発性硬化症は指定難病のひとつで、1万人に1人くらいの割合で発症します。この病気は神経を取り巻く髄鞘といわれるものに、免疫細胞が間違って攻撃してしまって発症するとされますが、どうして発症するのかは未だに分かっていません。その病気に対する薬を作るのには、やはり動物実験である程度の成果を得なければならないのですが、ヒトでどうして発症するか分からない病気を、マウスで高頻度で発症させる*2のは至難の業です

そこで、多発性硬化症では免疫応答が異常になることに着目して、百日咳毒素をマウスに投与します。さらに、普通ヒトでは起こっていないのかも知れませんが、髄鞘のタンパク質(MOG等)を過剰に投与して、わざと免疫反応を起こします。これが、多発性硬化症の動物モデルであるEAEマウスの正体です。こうして書くと、EAEマウスもかなり異常なことを行っていますが、このマウスのおかげで今日の多発性硬化症に対する薬ができたのも事実です。

そういった意味で、今回HANSのマウスモデルを作成する時に、百日咳毒素を投与したり投与量を異常に高くしたのは、ある意味では仕方がない措置だったのかも知れません。

 

まだ、HPVワクチンと一部の人で見られるHANSと呼ばれる症状が、本当にHPVワクチンと相関があるかは分からないと思います。それに加えて、いくつかの臨床研究では、その2つの関係を否定しているのも事実でしょう。つまりHANSの存在自体があやしいというのは、否定できないことだと思います。

ただ、だからといって、今回のこの論文をリトラクトして良い、という判断にはならないでしょう。論文発表は科学に対して真摯であるべきです。例え現状とは合わなくとも、そこから何も得られない訳ではありません。この実験条件では、マウスは行動異常(および解剖知見)を示す、この結果もまた、立派な科学的事実です。今回の結果が本当に臨床現場の現象に当てはまらないのかは、これからの研究が決めることでしょう。また、この結果が、HANSではなく、他の研究に対して良い影響を与えるきっかけになったかも知れません。それなのに、そういう次に続いたかもしれない研究の芽を、リトラクトという形で取り除いてしまうことになった今回の件は、研究者として私は少し残念に感じました。

 

まじめで暗い話になってしまいましたが、最後まで読んで頂きましてありがとうございました。失礼致します。

 

*1:HPVワクチンによっておきるとされる神経炎症性症候群の総称

*2:高頻度で発症させる、というのは、もしもヒトとマウスが同じ頻度でこの病気にかかるのであれば、マウスを1万匹飼育してようやくこの病気のマウスを1匹手に入れることができる、ということです。こんな方法を取っていたのでは、いつまで経っても薬を作ることはできません。そのため、どんな病気に対する薬を作る場合でも、ほぼ確実に特定の病気を引き起こすことのできる病気のモデルをマウスで作ることは、とても重要なステップなのです。

やかんの熱を感じる仕組み

お久しぶりです、アザラシです。ブログを更新しない間に、もうすぐ春ですね。春は暖かい程度ですが、今日は「やけどするくらいに熱い」温度に関する論文を紹介します。今回紹介する論文はこちら!

 

A TRP channel trio mediates acute noxious heat sensing

www.nature.com

 

タイトルでも示しましたが、沸騰したお湯の入っているやかん等を知らずに触った時、「あつっ!!」と思うと同時に手を引っ込めるという動作は、誰もが経験したことのあるものだと思います。この動作は細かく分類すれば、以下のように分けられるでしょう;

  1. やかんの熱を手が感じる
  2. 「やかんが熱い」という情報が電気信号として手から背中(脊髄)に伝わる
  3. 脊髄から脳へ電気信号が送られると同時に、腕の筋肉に対して収縮するように電気信号が送られる
  4. 筋肉が収縮して手がやかんから離れる
  5. ほぼ同時に、脳が送られてきた電気信号を「あつっ!!」という感覚に変換する

3.から4.の動作は、いわゆる「脊髄反射」と呼ばれるものです。耳にしたことのある方も多いと思いますし、ここでは脊髄反射は話題ではないので割愛します。上の動作でのキーワードは、電気信号です。人間に限らず、多くの動物では電気信号を介して、体の各部位と脳との情報伝達を行います。この情報伝達を担うものが、「神経」です。

では、1. について詳しく見ていきましょう。1では、「やかんの熱が感覚神経に電気信号として伝わる」ということが起こっています。つまりここでは、熱が電気信号に変換されなければならないのです。どうやればそんなことができるのでしょうか?それがこの論文の本題です。

感覚神経は「イオンチャネル」と呼ばれるセンサーを持っています。これにはさまざまなものがあって、熱や冷たさ、酸っぱさ(酸)、何かに触った事を感じるものなどがありますが、総じて、イオンチャネルは外からの刺激を電気信号へ変換するという性質を持ちます。ですので、やかんの熱は何らかの「熱感受性イオンチャネルセンサー」を刺激することで、感覚神経に電気信号を伝えるわけです。

熱感受性イオンチャネルセンサーは、多数見つかっていますが、結局どれがどの程度大事なのかということについては、実は今まではっきりとしていませんでした。今回の論文では、1つずつ熱感受性イオンチャネルセンサーの機能を確かめ、3つの熱感受性イオンチャネルセンサーが「やかんの熱」を感じることに必要十分であることを突き止めました。具体的な内容は以下になります。

  1. TRPV1, TRPM3, TRPA1(トリップブイワン、トリップエムスリー、トリップエイワン)という3つの熱感受性イオンチャネルセンサーを失ったネズミは、やけどするほどの高温を感じることができないことを明らかにした

  2. しかしこれら3つの熱センサーのうち、1つでも持っていれば、ネズミはやけどするほどの高温を感じることができた

  3. 3つの熱感受性イオンチャネルセンサーを失ったネズミは、熱以外の痛い刺激(痛いほどの冷たさ、つねられた時の痛み)に対しては正常な反応を示した

このことを明らかにしたベルギーの研究チームは、3つも熱感受性イオンチャネルセンサーがある理由を「フェイルセーフ機能(1つがダメになっても何とか対応するための機能)」だとしています。確かに、やけどするような高温から逃げる仕組みが簡単に失われるようでは、そのネズミは簡単にやけどをしてしまい、場合によっては死んでしまう可能性も高くなってしまいそうです。進化の過程で、3つの熱感受性イオンチャネルセンサーを獲得したのかも知れません。

この論文のおかげで、長らく不明瞭だった「熱いやかんを触って感じる」痛みを感じるメカニズムが明らかにされました。実は、未だに「氷冷水に手を入れた時に感じる」痛みや、「つねられた時」の痛み、「切り傷」の痛みなど、多くの痛みをどうして感じることができるのか、全く分かっておりません。それは、これらの痛みに対するイオンチャネルセンサーが見つかっていないからです。今後、他の痛みを感じる機構がどんどん分かってくることを私は楽しみにしています。

 

それではこのあたりで失礼致します、最後まで読んで下さりありがとうございました!

 

p.s.

ちなみに、TRPV1には他にも有名な機能があります。それは“トウガラシセンサー”です。トウガラシを食べて感じる辛さ、熱さと似ていると思いませんか?案外、似たような感覚だと思う理由は、同じセンサーを介して感じてしまっているために、脳が判別できていないのかも知れませんね。

 

 

 

神経は“ウイルス”を使って会話する

皆様明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくというわけで、今年初めての論文を紹介したいと思います。今回紹介する論文はこれです!

The Neuronal Gene Arc Encodes a Repurposed Retrotransposon Gag Protein that Mediates Intercellular RNA Transfer

訳すれば、「神経の遺伝子ArcはレトロトランスポゾンであるGagタンパクの親戚であり、細胞間でのRNAの伝達を司る」、となります。何が何やらですね。

 

そもそも神経にとってArcとは?

私たちが物を覚えたりする時、脳はその神経活動を維持することによってそれを行おうとします。具体的な例を出すと、リンゴを見た時に、「リンゴ」という物を覚えようとして活性化した神経の活性をそのまま維持することで、リンゴを見ていない時でもリンゴのことを覚えていられる、という仕組みを脳は持っています。Arcというタンパク質は、この「活性化した神経の活性をそのまま維持する」ことに関与することが知られていました。つまり、Arcがなければ物を覚えられない、というわけです。

 

トランスポゾンとは?

トランスポゾンとは、ゲノム上をぴょんぴょん跳びはねる配列のことです。・・・書いていて意味不明だと思いました、ごめんなさい。トランスポゾンとはDNA(ゲノムを構成する物質)で出来ていて、普段はゲノム上にあるのですが、ある時突然ゲノムから抜け出して、ゲノム上の別の場所に移るという特殊な能力を持っています。トランスポゾンそのものは悪さをしないのですが、例えばトランスポゾンの移った先が、大事な遺伝子の書いてある場所だったりすると、その大事な遺伝子が機能しなくなってしまうので、大変なことになったりします(ヒトは多細胞生物なのでよほどでない限り大丈夫です)。自然界では、このトランスポゾンによって突然変異体が生まれたりするのも事実です。

レトロトランスポゾンとは、トランスポゾンの親戚ですが、こいつはDNAがぴょんぴょんすることはありません。代わりに、一度RNAという物質に複製されて、その後DNAに戻って(逆転写)、またゲノム上の別の場所に移る、という仕組みを有しています。

 

レトロトランスポゾンであるGagとは?

上記のレトロトランスポゾン、実はウイルスが自分を動物細胞内で増やす時に使う仕組みとしても知られています。Gagとはウイルスが持つタンパクのひとつで、ウイルスの外枠(カプシド)を作るために必須の物です。

 

今回の論文のあらすじ、すごいところ

ほ乳類のArcとウイルスのGag、実はDNA配列がよく似ていることは既にわかっていました。しかし、ほ乳類のArcが記憶に関与するとはいえ、具体的にどんなことをしているのか、わかっていなかったのです。今回の論文では、実際にArcをもつ神経細胞がウイルスのようなカプセルを作り、隣にいる神経細胞にArcの遺伝子(正確にはメッセンジャーRNA)を渡していることを明らかにしました。つまり、神経細胞が自ら、ウイルスのような構造体を作って、隣の神経細胞とコミュニケーションを取っていたということになります。

このような細胞間コミュニケーションは前代未聞で、今後は神経細胞以外でもこのようなコミュニケーションが存在するのか(しそうですね)、カプセルの中にはAcr以外にどんな遺伝子が入れるのか、などがわかってくるかと思います。また、新しい神経細胞の遺伝子操作技術にも活かせそうですね(これが一番大きいかも)。

何はともあれ、今後の発展が非常に期待される、とても面白い発見でした。今回はこのあたりで!読んで下さってありがとうございました!本年もどうぞよろしくお願いします!

みんな違ってるのにみんな同じで良いの?

もうすぐ今年が終わってしまいますが、いかがお過ごしでしょうか?今年の最後になりそうな今回、紹介する論文はこちらになります!

Pharmacogenomics of GPCR Drug Targets

今日、私たちが病気にかかった時に飲んでいる薬。それがどうして効くかというと、薬の中に入っている有効成分(通常1成分/1つの薬)が、体の中の特定のタンパク質に結合して、そのタンパク質の機能を変えてしまうからです。インフルエンザになったらタミフル、歯を抜いて痛かったらロキソニン、筋肉痛にはジクロフェナク、など病気や症状によって使う薬が違うのも、病気毎に重要なタンパク質が異なるためです。そのため、現在世の中にあるさまざまな薬は、「どのジャンルのタンパク質と結合するか」という指標で分類することもできます。

タイトルにあるGPCRとは、G Protein Coupled Receptorというタンパク質のジャンルの名前で、興奮した時に出るアドレナリンや幸せホルモンとして有名なセロトニンの結合するタンパク質などが含まれています。このことから想像できるように、GPCRは体の機能にとって重要な役割を果たすことが多いために、病気の症状に密接に関わることも数多くあります。そのため、薬の結合する相手としてもよく採用され、実際、全体の約34%の薬がこのGPCRを標的に作られています

さて、今回のタイトルにあるPharmacogenomics。これは「薬理ゲノム学」とも呼ばれる学問で、薬の効き目と遺伝情報の関係性を紐解くことを目的としています。私たちの遺伝子は、もちろん一人一人違います。遺伝子とは、タンパク質の設計図です。もちろん、GPCRもその例外ではありません。もし、GPCRの形が個人個人で少し違って、薬との結合の強さが変わっていたら、どうなるのでしょうか?そんな疑問に立ち向かったのがこの論文です。

  1. 68496人を対象にデータを集めた。
  2. μ 受容体(モルヒネの結合するタンパク質)などに対する個人的な変異で、薬の効果が変わったり副作用が出ることを、データと実際の実験から確かめた。

まずすごいのがデータの量。ほぼ7万人!これをしっかりと解析して、2.にあるように、どの変異がどのような薬の効果と結びつくかまで証明した論文は、ほとんど無いのではないのでしょうか?この論文の抄録にも書いてありますが、このような「遺伝子情報と薬の効果を結びつける」研究は、薬を飲む前にある程度の薬の効果を推定することや、よりよい薬の選択を行うためには欠かせないものです。このようなデータが集まって、いつの日か、同じ病気なのに一人一人別々の薬を飲むような、究極の「テーラーメイド医療」が実現されるかも知れません。こういう夢のあるデータ解析の研究が今後より一層発展して、よりよい推測などが実現することを祈っています。

 

それでは今日はこのあたりで!最後まで読んでくださりありがとうございました!