The Scientific Ocean

誰にでもわかりやすいように生命科学を解説しようとするアザラシのブログ。

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腸の神経は超働いている

ぷにぷにアザラシです。
もう少し良いダジャレのセンスが欲しい今日この頃です。

今回はこんな論文を紹介します。

その名も
Simultaneous optical and electrical in vivo analysis of the enteric nervous system
(生体を用いた腸管神経叢の視覚的・電気生理学的同時解析)
です。

私たちは普段、モノを食べると、食べたものは口から食道を通り、胃へ入って、その後小腸と大腸を経て肛門より排泄されます。その中でも小腸は、食べ物の消化や栄養分の吸収など多くの働きをこなす器官として知られています。

今回紹介する論文に出てくる腸管神経叢(ENS、enteric nervous system)はそんな小腸の動きや知覚などを司る大事な神経の塊で、脳や脊髄にも劣らないほどにその神経細胞のネットワークは発達していると知られています。

しかし、そんな大事なENSは長らくの間ほとんど研究されてきませんでした。
理由はただ一つ。

観察しにくいから。

それだけです。

脳や脊髄は場所が明確で割と体の表面に近いところにあるものが多く(深部にある神経細胞の働きは確かに観察しづらいのですが)、骨に支えられているため動きにくく、またネズミをうつ伏せにして上から観察できるので、何とかなります。しかし腸はネズミの下側にあります。おなかをメスで開こうものなら何か出てきてしまうでしょう。だから難しかったのです。

では今回の論文ではどうやってそんな難題を解決したのでしょうか。なんと、ネズミの腹部に窓を作って、そこから観察できるようにしたのです!

そうやってできたこの観察手法を用いて、この論文では以下のことを実験で確かめています。

  1. 従来より知られていた腸管の動きを制御する神経伝達物質アセチルコリンセロトニン)がENSに作用すること
  2. 腸に効果を示す薬として知られる化合物(ベタネコール(コリン作動薬)とテガセロド(5-HT4受容体アゴニスト、日本では未承認))がENSに作用すること
  3. ENSにある一部の神経(NOS1陽性GABAニューロン)を活性化することでENSの神経の働きが抑えられること

今回の論文で確かめたことは新しいことではなく、今までに知られていたことですが、何よりもすごいのはこれらの事実を生きている動物で確かめたところにあります。さらにこの手法では動物を殺さずにENSの様子を観察し続けられるため、例えば大腸炎を動物に引き起こした後毎日ENSの変化を観察することによって、新たな薬を創るための知見を得る、などの手段としても使えることと思います。

もしかするとこの手法は今までにあった技術で実現可能だったのかもしれませんが、実現可能であることに気付いて手法を編み出した筆者たちは本当に素晴らしいと思います。発想の転換は大切だと思い知らされました。

 

 論文の紹介はここで終わりで、お知らせがあります。

何と、Twitterを始めました。@puni2azarashiです。

アラート用のアカウントとして用いたいと思っております。
この更新がいつまで続くか分かりませんが、できるかぎり努力しますので、ご興味のある方は是非どうぞお使いください。

 

ではまたよろしくお願いいたします!

水よりもスポーツ飲料だけれども

ぷにぷにアザラシです。

今日は論文紹介ではなくて、私の知っている範囲での科学の知識をご紹介したいと思います(これからはこのようなコーナーをコラムと称します)。
と言っても、私は大学教授のようなエキスパートではありませんので、ある程度はご了承いただけますと幸いです。

これから数回は、「電気生理」というものを扱います。
これは生物と物理を同時に扱う学問です。
この分野になじみのない方にはあまり想像できないのではないでしょうか?
私も、高校生の時にこんな学問があるなんて知りもしませんでした。勉強するにも、生物と化学、物理と化学、という選択しか高校の時はできなかったですし(当時の私の高校(私立)では、です)、生物と物理が融合する日が来るとは思ってもみませんでした。そのため、おそらくほとんどの方がご存じないと思いますので、このジャンルを扱うことにしました。頑張って平易な説明を心がけますが、何か分からないことがございましたらコメントをいただけますと幸いです。

今日ご紹介するのは、「イオン」についてです。

皆さん、イオンという言葉をご存じでしょうか?
滝壺にはマイナスイオンがたくさんあるとか、そんな感じで聞いたことがあるかもしれません。
イオンとは、「電気を帯びた粒」と思っていただいて良いと思います。マイナスイオンは、マイナスの電気を帯びた粒、反対のプラスイオンはプラスの電気を帯びた粒、です。
今回タイトルにしたスポーツ飲料に関しても、イオンという言葉を聞いたことがある人がいるかもしれません。スポーツ飲料は普通の水に比べて体に必要なイオンが入っているから、スポーツ時にはいい水分補給になる、という感じでよく宣伝されていますね。「体液に近い成分」だからオッケー、ということを聞いたことがある方もいるかと思います。なんなら、某大○製薬のポ○リスウェットのカロリーオフのものの商品名は「イオンウォー○ー」と言います。そのまんまです。

では、「体に近い成分」っていったい何なのでしょう?
体の成分に該当するものはもちろんたくさんありますが、今回は体のうち液体である「血液」に着目したいと思います。その血液の成分の中で最も大切なものの一つとして、今回話題にするイオンがあります。

では早速、私たちの血液はどんなイオンでできているのでしょうか?
プラスイオンとしては、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)がよく知られています。
マイナスイオンとしては、主には塩化物イオン(クロライドイオン、Cl-)が知られますが、他にも硫酸イオン(SO4 2-)、炭酸イオン(CO3 2-)、リン酸イオン(PO4 3-)などがあります。

さらにここで大切なのは、これらイオンの血液中での濃度は厳密に保たれている、ということです。
例えば、ナトリウムならば血液検査値でいうと135-150という間の値を保ちますし、カリウムとなると3.5-5.5という非常に狭い範囲で制御されています。
もしもこれらのイオンのバランスが崩れるとどうなるか。すべて体調不良になり病気と診断されます。特にカリウムは、高濃度になると死に至るため、医療現場では注射などで事故の起きないように多数の対策が取られています。それだけ、私たちの体は血液中のイオンに制御されているのです。

ではどうやって私たちは血液中のイオン濃度を制御するのでしょう?
それには、腎臓がほとんどすべての役割を担っています。ナトリウムが高ければ、ナトリウムをおしっこに出し、逆に少なければ出さないようにしています。ラーメンを食べた後に何となくおしっこから塩っぽいにおいを感じた経験のある方もいるのではないでしょうか?そんな時は腎臓が頑張っているのです。また、炭酸イオンについてはも排出に関与していて、血中の炭酸イオンが多いと、吐く息に二酸化炭素がたくさん含まれるようになります。

こんな感じで、私たちの体は日々イオンを厳密に制御しているのです。

では、このイオンはいったいどんなことをしているのでしょう?
体のどんなことをイオンは制御しているのでしょう?
それについてはまた次回述べたいと思います。

 

それでは次回もよろしくお願いいたします!

脊髄神経ネットワークの多様性と筋肉の制御

ぷにぷにアザラシです。

記念すべき初投稿に1週間以上かかってしまいましたが、早速紹介を始めたいと思います。

 

今回紹介する論文は、

Spinal Inhibitory Interneuron Diversity Delineates Variant Motor Microcircuits

という論文です。

 

私たちは普段何気なく歩いたり、物体をつかんだりすることができますが、そんなことができるのは、体中を覆う筋肉ひとつひとつが、厳密に神経細胞という「電線」によってコントロールされているおかげです。

脊髄というのは、背骨の中に存在する神経細胞の密集した場所で、体のあらゆる部位から「電線」を伝わってきた電気信号を受け取る場所です。脊髄は、神経細胞の最高機関である脳へ「電線」を伸ばしているだけではなく、伝わってきた電気信号を解読して、脳を介さずに電気信号を返信する機能も有します。

例えば熱いやかんを触ると、すぐに手を引っ込めますが、こういう瞬間的な動作は、脳ではなくて脊髄で行われると考えられています。また、普段歩く際も、意識して太ももとふくらはぎの筋肉を動かしたりしないですよね?そういう無意識で行われる動作も一部、脊髄が責任を担っていると考えられています。

しかし、どんな神経細胞が、どんな「電線」を介してこのようなことを行うのかは、まだまだ解明されていません。

今回の論文は、そんな疑問に挑戦した論文です。

 

この論文のすごいところは、おおざっぱに言うと、

1. 脊髄の腹側と背側に分けて網羅的に遺伝子解析を行い、運動に関連した神経細胞の有する遺伝子を同定した。

2. それら遺伝子を発現する神経細胞が、脊髄内でお互いに違う場所に集まっていることを発見した。

3. それらの神経細胞に対して電気生理学的な特徴付けを行った。

4. 臀部、ふくらはぎ、足首の動きを支配する「電気回路」はそれぞれ異なる神経細胞を介することを示した。

だと思います。

 

特に1.と2.の発見は大きく、今後の筋肉の動きを制御する神経細胞を研究する人々を先導するような知見ではないかと思います。

4.の発見もすばらしく、私を含めて素人目で見ると、違う筋肉を違う神経細胞が制御するのは当たり前に感じますが、それをこれほどまでにしっかりと証明できるのかと感じると共に、生物の精密な作りに感動しました。

 

今後、熱いやかんを触った際の、すぐに手を引っ込める動作など、多数の筋肉が協調して瞬時に動くような場合には、どのような回路が必要なのか、そういうことも解明されるのかもしれません。

 

・・・論文の説明を、生命科学を知らない人宛に初めて書いてみたのですが、やはり難しいですね。。これでも分かってくださる方がどれほどいるか。。

 

あと、やはり簡単な単語については論文とは別に紹介した方が良い気がしたので、これからは、そういうことも行っていこうと思います。

 

 

ではまたよろしくお願いいたします!

 

 

自己紹介など

はじめまして。

ぷにぷにアザラシです。

 

私は現在とあるところで生命科学の研究をしている者です。

ですが、研究をわかりやすく他人に解説することの難しさを、

日々痛感しております。

 

そこで、このブログでは、最近読んだ学術論文を、

わかりやすく解説できればと思っております。

(さすがに図などは載せることはできませんが)

 

Open access(無料で読める)な記事も扱いたいと思っております。

これから生命科学を研究したいと思っている中学生や高校生、

かつて研究はしていたけれど現場を離れた方々の目に留まれば幸いです。

もちろん、現役で研究している方々のコメントも大歓迎であります。

 

なお、私の研究は神経科学メインですので、その内容が多くなるかと思います。

一部、免疫学など他の分野も触れていきます。

 

近々更新していきたく思っておりますので、

よろしくお願いいたします。