The Scientific Ocean

誰にでもわかりやすいように生命科学を解説しようとするアザラシのブログ。

中の人(アザラシ)のTwitterは@puni2azarashiです。 このブログの趣旨はこちらを参照

音を楽しむ仕組み

ぷにぷにアザラシです。twitterではチーターのことを書くと予告しながら、少しおもしろいものを見つけたので紹介します。今日の話題はこれ!

Neuroscience: How music meets mind

これは論文ではないのですが、“Nature”という、その筋の人で知らない人はいない有名な雑誌に紹介された記事です。簡単に言うと、「人はどうして音楽に感動するか」、ということについての文章です。

考えてみれば不思議なもので、僕たちはあまり言葉を聞き取れない洋楽であっても、バラードを聴いて感傷に浸り、ロックを聴いて心を躍らせることが出来ます。時代をさかのぼって、17世紀などにバッハが作った曲を美しいと感じることが出来ます。つまり、音楽というものは、文化の垣根を越えて、人類全てに通用する方法で、私たちの心を揺さぶることが出来るのです。

音楽をどう感じるかはともかく、音楽に対するセンス(絶対音感や作曲能力など)は人それぞれです。絶対音感を持つ人は、この文章によると西洋人10000人に1人の割合だそうです。しかし、自閉症の人では、その確率が12,3人に1人となり、生まれながら、あるいは生まれてすぐに目が見えなくなった人では、その確率がなんと2人に1人となるそうです。すごい!

では、絶対音感とはどうして生まれるのでしょうか?この文章によると、それは音そのものに対する卓越した能力から生まれるものではなく、音楽構造に対する感性から生まれるものだ、と考えている研究者がいるようです。絶対音感を持つ被験者に対して、音楽理論にしたがった曲を聴かせて、同じように演奏するように指示すると、正しく元の曲を復元することが出来ます。しかし、音楽理論を完全に無視した曲を聴かせて、それを同じように演奏するように指示しても、上手くいかないのです。つまり、絶対音感による記憶は少なくとも、音楽理論(音楽構造に対する感性や、幼少期に聴いた音楽の構造)が関与する、ということを意味しています。ただ個人的には、例えば「わたしのなまえはぷにぷにあざらしです」という文章を覚える方が、「わのぷなはたしあざぷにますえでにざらし」という単語の羅列を覚えるより遥かに楽なので、当たり前なのではないか、とは少し思います(私の英語の読み間違えだったらごめんなさい)。

それにしても、どうして絶対音感を有する割合が、目の見えない方では増えるのでしょうね。視覚を司る脳部位と音を司る脳部位は違うものですし。もしかすると、視覚を司る脳部位が余るから、代わりに音を処理するように変化するのかも知れませんね。そうなると、どうして味とか、匂いとか、数学の能力とか、他のものよりも率先して音を処理するようになるのか、気になるところです。

あと、どうして音楽に対する感情が世界共通なのかも気になるところです。味覚などは文化や地域差が大きいのに(東日本と西日本でも醤油の濃さなど違いますよね)、音についてはそんなに変化が無いのか。音楽で感動することは、生きる上で欠かせないものでは無いように感じますし(私個人はno music no lifeな人間ですが)。謎は深まるばかりです。

何はともあれ、この文章は英語ですが、おそらく誰でも見ることが出来る記事だと思いますので、ご興味のある方は是非見てみて下さい。それでは今日はこのあたりで。最後まで読んで下さり、ありがとうございました!

 

大きくなったり 小っちゃくなったり

こんにちは、ぷにぷにアザラシです。今回紹介する論文はこちら!

Fatty acid aveilability sets cell envelope capacity and dictates microbial cell size

今回はちょっと今までとは雰囲気が変わっての話です!みなさん、菌といわれるとどんなものを想像するでしょうか?大腸菌やカビのような身体に悪そうなもの、日本酒やパンを作るのに欠かせない発酵菌、無害そうなアメーバ、ゾウリムシ。もしかするとインフルエンザをおこすようなウイルスや、高校生物を習ったことがある方ならバクテリオファージなどを菌と見なす人もいるかも知れません。今回は、ウイルスやファージは少し置いておいて、単細胞の菌の話です。

私もこの論文を読むまで知らなかったのですが、菌の大きさは、周りの環境で大きく変化します。単純に書けば、栄養がなければ菌は小さくなり、栄養豊富なら大きくなるのです。まぁ多少は、とは思いますが、栄養がなくなるとなんと1/3の大きさにまで縮まってしまうというのですから驚きです。程度はともあれ、想像はたやすいこの現象ですが、実はどうして大きさが変化するのか、細かいことは分かっていませんでした。今回はそこを明らかにした論文になります。

  1. 大腸菌を使って、炭化水素やタンパクではなく、脂肪酸の量によって菌の大きさが制御されることを突き止めた
  2. 枯草菌や酵母でも同じことが起こることを明らかにした
  3. ppGppという分子が、脂肪酸の量と菌の大きさとの関係を保っていることを明らかにした

ここでおもしろいのは、大腸菌と枯草菌、酵母がすべて、脂肪酸によって菌の大きさを制御するという同じ仕組みを持っている、というところです。なぜなら、大腸菌と枯草菌、酵母は、全然違う生物だからです(大腸菌グラム陰性菌類、枯草菌はグラム陽性菌類、酵母は真菌類に属します)。例えて言えば、サンマ(魚類)とカエル(両生類)とアザラシ(ほ乳類)が同じメカニズムで太ることを見つけた、という感じでしょうか(あれ、なんか想像つきそうな気もするぞ。。。)。しかし、その細胞の持つ仕組みがそのまま個性になるような単細胞生物のこの3つが、自分の大きさを大きくしたり小さくしたりする方法をあえて変更せずに、今まで進化してきたというところには、興味が湧きました。一体どこまでが共通してて、どこからが菌の個性なのか、哲学みたいな話ですが、分かってくると楽しい話なように感じます。それにしても脂肪で太るとは、ヒトにも似てるな、とちょっと思いました(笑)。

 

それでは今日はこのあたりで!最後まで読んで下さり、ありがとうございました!

体温を維持する2つの仕組み

ずいぶんとお久しぶりです。ぷにぷにアザラシです。やっと身辺が落ち着いてきましたので、久しぶりに更新しようと思います。本日の論文はこちら!

Mitochondrial Patch Clamp of Beige Adipocytes Reveals UCP1-Positive and UCP1-Negative Cells Both Exhibiting Futile Creatine Cycling

パッチクランプ(Patch Clamp)とは、細胞の電気を測るための実験方法です(電気生理学についての説明はこちら)。今回は、パッチクランプを、細胞ではなく、細胞の中にあるミトコンドリアに対して行った、という論文です。今回の紹介では、この部分はメインではないので簡単に書きましたが、実はこの実験はものすごく難しい技術で、こんな実験を出来るのは、世界でも2,3研究室しかないのではないでしょうか?難しい技術だからこそ、新しいことを発見できるのかも知れません。

Beige Adipocyteとは、ベージュ脂肪細胞という細胞の種類を指します。
脂肪細胞”と言われると、皆さんは「太る」と想像されるのではないでしょうか?その反応は、半分あっていて半分間違っています。脂肪細胞は、大きく2つの種類に分かれます。褐色脂肪細胞白色脂肪細胞です。白色脂肪細胞は、皆さんのご想像の通り、脂肪を蓄えるための細胞です。ですので、これが増えると太ります。では、褐色脂肪細胞の役割は何かと申しますと、熱を発することです。つまり、どちらかというと、褐色脂肪細胞が働けばそれだけ、痩せる、ということになります。で、この褐色脂肪細胞は、UCP-1(uncoupling protein 1)というタンパク質を使って熱を発する、ということが既に分かっています。

では、今回出てくるベージュ脂肪細胞とは何なのかと申しますと、これは白色脂肪細胞が変身して褐色脂肪細胞のようになった姿です。しかし、完全には褐色脂肪細胞になりきれませんので、ベージュ脂肪細胞というわけです。ちなみに、このベージュ脂肪細胞も役割は熱の産生で、UCP-1も持っています。

というわけで、「UCP-1をもっていれば熱産生が出来る」と、おそらく3,40年は信じられてきました。そう、この論文が出るまでは。本論文はそんな常識をあっさりと覆した論文になります。今回の主なポイントは以下の通りです。

  1. 今までに知られていたように、皮下脂肪にあるベージュ脂肪細胞は褐色脂肪細胞と同じような仕組みを持っている。
  2. 一方で、腹部にあるベージュ脂肪細胞は、UCP-1を全く持っていない
  3. 腹部脂肪にあるベージュ脂肪細胞は“無益クレアチン回路”という機能を使って熱を産生している
  4. 皮下脂肪にあるベージュ脂肪細胞も、一部は無益クレアチン回路に依存して熱を産生している

この発見は本当にすごくて、例えば今まで肥満を治療する薬を作るためには、「UCP-1を活性化すれば良い」という戦略しかなかったのに、「無益クレアチン回路を活性化すれば良い」という新しい戦略を使用できることを示しています。また、今までずっと常識だと思われていて、教科書にもしっかりと記載されていたことを、あっさりと覆したところも非常に素晴らしい点です。この発見はつまり、教科書を書き換えるレベルの成果だと言えます。いつか、こんな素晴らしい研究に出会いたいと感じました。

今日の紹介は以上になります。
読んでいただきまして、ありがとうございました!

”空白”を読む鳥

本当にお久しぶりです。ぷにぷにアザラシです。身の上が忙しかったために、ここ数ヶ月は更新できておりませんでした。。まだしばらく忙しい日々が続きそうですが、ぼちぼち更新をしたいと思います。

今日紹介する論文は、酉年ということで(今更と言わないで)、これです!

Mind the gap: Neural coding of species identity in birdsong prosody

“ホーホケキョ”。春が近づくにつれてウグイスはその“歌”に磨きをかけてゆきます。鳥は、大人の鳥の鳴き声を聞くことによって自らの鳴き方を学習していきます。しかし、自然の中にいるたくさんの鳥がそれぞれの鳴き声で鳴いている中で、どうしてウグイスは自分の鳴き声が“ホーホケキョ”だと知り、それに磨きをかけることができるのでしょう?今回紹介する論文は、そんな不思議の一部を解明したものです。

この論文で使用しているのはキンカチョウと呼ばれる小鳥(ペットとしても飼われています)で、こんな感じです。

(提供:OIST)

この動画のように、キンカチョウは親から鳴き声を学習する性質があります。
ではもし、幼いキンカチョウが自分とは違う種類の親に育てられたら、どうなるのでしょうか?この論文の筆者達は、幼いキンカチョウと成鳥になったブンチョウを一緒に飼うことで、キンカチョウにブンチョウの鳴き声を覚えさせました。すると、キンカチョウはブンチョウの音程を覚えることができました。しかし、音と音の間の休符を守ることができなかったのです!つまり、キンカチョウはブンチョウの鳴き声の音を出しているのに、その鳴き声のテンポが全然違う、ということです。さらに筆者達は、その鳴き声のテンポは、キンカチョウが生来的に持っているテンポに依存していると主張しています。

つまり、鳥の鳴き声のメロディーは生まれてから決まるけれども、メロディーのテンポは生まれながらにして既に決まっているということです。

全ての鳥にこのような仕組みが備わっているのかはもちろん不明ですが、自然の偉大さを感じた論文でした。詳しくは、OIST(沖縄科学技術大学院大学)のこのページに紹介されていますので、是非!

それでは、このあたりで失礼します。最後までおつきあいありがとうございました!