The Scientific Ocean

誰にでもわかりやすいように生命科学を解説しようとするアザラシのブログ。

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オプジーボ だけでは がん をやっつけられない

こんにちは、ぷにぷにアザラシです。昨今話題のオプジーボのターゲットタンパクPD-1ですが、今日、こんな論文が出たので紹介します。

www.nature.com

背景

 今回の主役はがんをやっつける細胞「細胞傷害性 T 細胞」と「PD-1」です。本庶先生のノーベル賞受賞のおかげで、かなり広まりましたね。簡単に述べますと、PD-1を持っている T 細胞は、がん細胞によってPD-1のスイッチを押されるために、がんをやっつけることができなくなる、というのが今までの一般常識でした。だからPD-1のスイッチを押せないようにするオプジーボは、T 細胞のがんをやっつける力を復活させ、それが抗がん作用に結びつくわけですし、今までPD-1を発現したT 細胞は“役立たず”と考えられてきました
 しかし今回の受賞で何回も指摘があったように、オプジーボは全てのガンに奏功するわけではありません。がんにも色々な種類があるからか、というように思われてはいましたが、どうしてそうなるのかはいまいちはっきりとしていませんでした。

今回の発見

今回は乳がん皮膚がんのサンプルを使って、そこにいるT 細胞を比べています。わかったことは、

  • 乳がんの T 細胞も皮膚がんの T 細胞もPD-1を持っている
  • 皮膚がん T 細胞は、がんをやっつけるタンパク(サイトカイン)の産生能力が限定されている(1種類しか出せない)のに対して、乳がん T 細胞は少なくとも3種類出せるものが数多くいる
  • その結果、乳がん T 細胞は、PD-1を持っているけれども、がんをやっつける能力を保持できている(役立たずではない

です。つまりは、PD-1が T 細胞の抗がん活性マーカーとして十分ではない、ということをはっきりと示しています。ちなみにこの人たちはさらに検討していて、PD-1に加えて"TIM-3"というタンパクを持っている T 細胞こそが、本当の役立たず T 細胞であると予想しています(乳がん T 細胞ではTIM-3を持っている T 細胞が少ない)。

アザラシの感想・今後

真っ先に誰もが思いつくことは、どうしてPD-1は乳がんでは機能していないのか?ということでしょう。筆者達にも詳しい理由はわからないようです。乳がんの中にも色々な種類があって(エストロゲン受容体(ER)というタンパクや、HER-2というタンパクをもっているかどうか等)、それによって“悪性度”とよばれるがんの強さも変わるのですが、乳がんの一部は昔から T 細胞によって殺されないという性質があるようです。今回の研究に用いた多くのサンプルは 「ERを持っていてHER2を持っていない」T 細胞によって殺されにくい乳がんだったようです。その乳がんのサンプルを使っても、T細胞に細胞を殺す力があったということは、一部の乳がん細胞は、PD-1を介して T 細胞の働きを止めて自分を守るわけではなく、別の方法で何とかして T 細胞の攻撃から我が身を守っているのでしょう。つまりは、オプジーボは効かない、ということをはっきりと示しています。がん細胞が自分の身を守る別の方法が何なのかを見つけることが、今後の課題になりそうです。

 

以上、ホットなPD-1に関する論文紹介でした!がんって面白いですね!
それでは、最後まで読んで頂きありがとうございました!