The Scientific Ocean

誰にでもわかりやすいように生命科学を解説しようとするアザラシのブログ。

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神経は“ウイルス”を使って会話する

皆様明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくというわけで、今年初めての論文を紹介したいと思います。今回紹介する論文はこれです!

The Neuronal Gene Arc Encodes a Repurposed Retrotransposon Gag Protein that Mediates Intercellular RNA Transfer

訳すれば、「神経の遺伝子ArcはレトロトランスポゾンであるGagタンパクの親戚であり、細胞間でのRNAの伝達を司る」、となります。何が何やらですね。

 

そもそも神経にとってArcとは?

私たちが物を覚えたりする時、脳はその神経活動を維持することによってそれを行おうとします。具体的な例を出すと、リンゴを見た時に、「リンゴ」という物を覚えようとして活性化した神経の活性をそのまま維持することで、リンゴを見ていない時でもリンゴのことを覚えていられる、という仕組みを脳は持っています。Arcというタンパク質は、この「活性化した神経の活性をそのまま維持する」ことに関与することが知られていました。つまり、Arcがなければ物を覚えられない、というわけです。

 

トランスポゾンとは?

トランスポゾンとは、ゲノム上をぴょんぴょん跳びはねる配列のことです。・・・書いていて意味不明だと思いました、ごめんなさい。トランスポゾンとはDNA(ゲノムを構成する物質)で出来ていて、普段はゲノム上にあるのですが、ある時突然ゲノムから抜け出して、ゲノム上の別の場所に移るという特殊な能力を持っています。トランスポゾンそのものは悪さをしないのですが、例えばトランスポゾンの移った先が、大事な遺伝子の書いてある場所だったりすると、その大事な遺伝子が機能しなくなってしまうので、大変なことになったりします(ヒトは多細胞生物なのでよほどでない限り大丈夫です)。自然界では、このトランスポゾンによって突然変異体が生まれたりするのも事実です。

レトロトランスポゾンとは、トランスポゾンの親戚ですが、こいつはDNAがぴょんぴょんすることはありません。代わりに、一度RNAという物質に複製されて、その後DNAに戻って(逆転写)、またゲノム上の別の場所に移る、という仕組みを有しています。

 

レトロトランスポゾンであるGagとは?

上記のレトロトランスポゾン、実はウイルスが自分を動物細胞内で増やす時に使う仕組みとしても知られています。Gagとはウイルスが持つタンパクのひとつで、ウイルスの外枠(カプシド)を作るために必須の物です。

 

今回の論文のあらすじ、すごいところ

ほ乳類のArcとウイルスのGag、実はDNA配列がよく似ていることは既にわかっていました。しかし、ほ乳類のArcが記憶に関与するとはいえ、具体的にどんなことをしているのか、わかっていなかったのです。今回の論文では、実際にArcをもつ神経細胞がウイルスのようなカプセルを作り、隣にいる神経細胞にArcの遺伝子(正確にはメッセンジャーRNA)を渡していることを明らかにしました。つまり、神経細胞が自ら、ウイルスのような構造体を作って、隣の神経細胞とコミュニケーションを取っていたということになります。

このような細胞間コミュニケーションは前代未聞で、今後は神経細胞以外でもこのようなコミュニケーションが存在するのか(しそうですね)、カプセルの中にはAcr以外にどんな遺伝子が入れるのか、などがわかってくるかと思います。また、新しい神経細胞の遺伝子操作技術にも活かせそうですね(これが一番大きいかも)。

何はともあれ、今後の発展が非常に期待される、とても面白い発見でした。今回はこのあたりで!読んで下さってありがとうございました!本年もどうぞよろしくお願いします!