The Scientific Ocean

誰にでもわかりやすいように生命科学を解説しようとするアザラシのブログ。

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2018.9~ noteもはじめました!こちらへどうぞ!

やかんの熱を感じる仕組み

お久しぶりです、アザラシです。ブログを更新しない間に、もうすぐ春ですね。春は暖かい程度ですが、今日は「やけどするくらいに熱い」温度に関する論文を紹介します。今回紹介する論文はこちら!

 

A TRP channel trio mediates acute noxious heat sensing

www.nature.com

 

タイトルでも示しましたが、沸騰したお湯の入っているやかん等を知らずに触った時、「あつっ!!」と思うと同時に手を引っ込めるという動作は、誰もが経験したことのあるものだと思います。この動作は細かく分類すれば、以下のように分けられるでしょう;

  1. やかんの熱を手が感じる
  2. 「やかんが熱い」という情報が電気信号として手から背中(脊髄)に伝わる
  3. 脊髄から脳へ電気信号が送られると同時に、腕の筋肉に対して収縮するように電気信号が送られる
  4. 筋肉が収縮して手がやかんから離れる
  5. ほぼ同時に、脳が送られてきた電気信号を「あつっ!!」という感覚に変換する

3.から4.の動作は、いわゆる「脊髄反射」と呼ばれるものです。耳にしたことのある方も多いと思いますし、ここでは脊髄反射は話題ではないので割愛します。上の動作でのキーワードは、電気信号です。人間に限らず、多くの動物では電気信号を介して、体の各部位と脳との情報伝達を行います。この情報伝達を担うものが、「神経」です。

では、1. について詳しく見ていきましょう。1では、「やかんの熱が感覚神経に電気信号として伝わる」ということが起こっています。つまりここでは、熱が電気信号に変換されなければならないのです。どうやればそんなことができるのでしょうか?それがこの論文の本題です。

感覚神経は「イオンチャネル」と呼ばれるセンサーを持っています。これにはさまざまなものがあって、熱や冷たさ、酸っぱさ(酸)、何かに触った事を感じるものなどがありますが、総じて、イオンチャネルは外からの刺激を電気信号へ変換するという性質を持ちます。ですので、やかんの熱は何らかの「熱感受性イオンチャネルセンサー」を刺激することで、感覚神経に電気信号を伝えるわけです。

熱感受性イオンチャネルセンサーは、多数見つかっていますが、結局どれがどの程度大事なのかということについては、実は今まではっきりとしていませんでした。今回の論文では、1つずつ熱感受性イオンチャネルセンサーの機能を確かめ、3つの熱感受性イオンチャネルセンサーが「やかんの熱」を感じることに必要十分であることを突き止めました。具体的な内容は以下になります。

  1. TRPV1, TRPM3, TRPA1(トリップブイワン、トリップエムスリー、トリップエイワン)という3つの熱感受性イオンチャネルセンサーを失ったネズミは、やけどするほどの高温を感じることができないことを明らかにした

  2. しかしこれら3つの熱センサーのうち、1つでも持っていれば、ネズミはやけどするほどの高温を感じることができた

  3. 3つの熱感受性イオンチャネルセンサーを失ったネズミは、熱以外の痛い刺激(痛いほどの冷たさ、つねられた時の痛み)に対しては正常な反応を示した

このことを明らかにしたベルギーの研究チームは、3つも熱感受性イオンチャネルセンサーがある理由を「フェイルセーフ機能(1つがダメになっても何とか対応するための機能)」だとしています。確かに、やけどするような高温から逃げる仕組みが簡単に失われるようでは、そのネズミは簡単にやけどをしてしまい、場合によっては死んでしまう可能性も高くなってしまいそうです。進化の過程で、3つの熱感受性イオンチャネルセンサーを獲得したのかも知れません。

この論文のおかげで、長らく不明瞭だった「熱いやかんを触って感じる」痛みを感じるメカニズムが明らかにされました。実は、未だに「氷冷水に手を入れた時に感じる」痛みや、「つねられた時」の痛み、「切り傷」の痛みなど、多くの痛みをどうして感じることができるのか、全く分かっておりません。それは、これらの痛みに対するイオンチャネルセンサーが見つかっていないからです。今後、他の痛みを感じる機構がどんどん分かってくることを私は楽しみにしています。

 

それではこのあたりで失礼致します、最後まで読んで下さりありがとうございました!

 

p.s.

ちなみに、TRPV1には他にも有名な機能があります。それは“トウガラシセンサー”です。トウガラシを食べて感じる辛さ、熱さと似ていると思いませんか?案外、似たような感覚だと思う理由は、同じセンサーを介して感じてしまっているために、脳が判別できていないのかも知れませんね。

 

 

 

神経は“ウイルス”を使って会話する

皆様明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくというわけで、今年初めての論文を紹介したいと思います。今回紹介する論文はこれです!

The Neuronal Gene Arc Encodes a Repurposed Retrotransposon Gag Protein that Mediates Intercellular RNA Transfer

訳すれば、「神経の遺伝子ArcはレトロトランスポゾンであるGagタンパクの親戚であり、細胞間でのRNAの伝達を司る」、となります。何が何やらですね。

 

そもそも神経にとってArcとは?

私たちが物を覚えたりする時、脳はその神経活動を維持することによってそれを行おうとします。具体的な例を出すと、リンゴを見た時に、「リンゴ」という物を覚えようとして活性化した神経の活性をそのまま維持することで、リンゴを見ていない時でもリンゴのことを覚えていられる、という仕組みを脳は持っています。Arcというタンパク質は、この「活性化した神経の活性をそのまま維持する」ことに関与することが知られていました。つまり、Arcがなければ物を覚えられない、というわけです。

 

トランスポゾンとは?

トランスポゾンとは、ゲノム上をぴょんぴょん跳びはねる配列のことです。・・・書いていて意味不明だと思いました、ごめんなさい。トランスポゾンとはDNA(ゲノムを構成する物質)で出来ていて、普段はゲノム上にあるのですが、ある時突然ゲノムから抜け出して、ゲノム上の別の場所に移るという特殊な能力を持っています。トランスポゾンそのものは悪さをしないのですが、例えばトランスポゾンの移った先が、大事な遺伝子の書いてある場所だったりすると、その大事な遺伝子が機能しなくなってしまうので、大変なことになったりします(ヒトは多細胞生物なのでよほどでない限り大丈夫です)。自然界では、このトランスポゾンによって突然変異体が生まれたりするのも事実です。

レトロトランスポゾンとは、トランスポゾンの親戚ですが、こいつはDNAがぴょんぴょんすることはありません。代わりに、一度RNAという物質に複製されて、その後DNAに戻って(逆転写)、またゲノム上の別の場所に移る、という仕組みを有しています。

 

レトロトランスポゾンであるGagとは?

上記のレトロトランスポゾン、実はウイルスが自分を動物細胞内で増やす時に使う仕組みとしても知られています。Gagとはウイルスが持つタンパクのひとつで、ウイルスの外枠(カプシド)を作るために必須の物です。

 

今回の論文のあらすじ、すごいところ

ほ乳類のArcとウイルスのGag、実はDNA配列がよく似ていることは既にわかっていました。しかし、ほ乳類のArcが記憶に関与するとはいえ、具体的にどんなことをしているのか、わかっていなかったのです。今回の論文では、実際にArcをもつ神経細胞がウイルスのようなカプセルを作り、隣にいる神経細胞にArcの遺伝子(正確にはメッセンジャーRNA)を渡していることを明らかにしました。つまり、神経細胞が自ら、ウイルスのような構造体を作って、隣の神経細胞とコミュニケーションを取っていたということになります。

このような細胞間コミュニケーションは前代未聞で、今後は神経細胞以外でもこのようなコミュニケーションが存在するのか(しそうですね)、カプセルの中にはAcr以外にどんな遺伝子が入れるのか、などがわかってくるかと思います。また、新しい神経細胞の遺伝子操作技術にも活かせそうですね(これが一番大きいかも)。

何はともあれ、今後の発展が非常に期待される、とても面白い発見でした。今回はこのあたりで!読んで下さってありがとうございました!本年もどうぞよろしくお願いします!

みんな違ってるのにみんな同じで良いの?

もうすぐ今年が終わってしまいますが、いかがお過ごしでしょうか?今年の最後になりそうな今回、紹介する論文はこちらになります!

Pharmacogenomics of GPCR Drug Targets

今日、私たちが病気にかかった時に飲んでいる薬。それがどうして効くかというと、薬の中に入っている有効成分(通常1成分/1つの薬)が、体の中の特定のタンパク質に結合して、そのタンパク質の機能を変えてしまうからです。インフルエンザになったらタミフル、歯を抜いて痛かったらロキソニン、筋肉痛にはジクロフェナク、など病気や症状によって使う薬が違うのも、病気毎に重要なタンパク質が異なるためです。そのため、現在世の中にあるさまざまな薬は、「どのジャンルのタンパク質と結合するか」という指標で分類することもできます。

タイトルにあるGPCRとは、G Protein Coupled Receptorというタンパク質のジャンルの名前で、興奮した時に出るアドレナリンや幸せホルモンとして有名なセロトニンの結合するタンパク質などが含まれています。このことから想像できるように、GPCRは体の機能にとって重要な役割を果たすことが多いために、病気の症状に密接に関わることも数多くあります。そのため、薬の結合する相手としてもよく採用され、実際、全体の約34%の薬がこのGPCRを標的に作られています

さて、今回のタイトルにあるPharmacogenomics。これは「薬理ゲノム学」とも呼ばれる学問で、薬の効き目と遺伝情報の関係性を紐解くことを目的としています。私たちの遺伝子は、もちろん一人一人違います。遺伝子とは、タンパク質の設計図です。もちろん、GPCRもその例外ではありません。もし、GPCRの形が個人個人で少し違って、薬との結合の強さが変わっていたら、どうなるのでしょうか?そんな疑問に立ち向かったのがこの論文です。

  1. 68496人を対象にデータを集めた。
  2. μ 受容体(モルヒネの結合するタンパク質)などに対する個人的な変異で、薬の効果が変わったり副作用が出ることを、データと実際の実験から確かめた。

まずすごいのがデータの量。ほぼ7万人!これをしっかりと解析して、2.にあるように、どの変異がどのような薬の効果と結びつくかまで証明した論文は、ほとんど無いのではないのでしょうか?この論文の抄録にも書いてありますが、このような「遺伝子情報と薬の効果を結びつける」研究は、薬を飲む前にある程度の薬の効果を推定することや、よりよい薬の選択を行うためには欠かせないものです。このようなデータが集まって、いつの日か、同じ病気なのに一人一人別々の薬を飲むような、究極の「テーラーメイド医療」が実現されるかも知れません。こういう夢のあるデータ解析の研究が今後より一層発展して、よりよい推測などが実現することを祈っています。

 

それでは今日はこのあたりで!最後まで読んでくださりありがとうございました!

母親のせいで臆病者に!?

ずいぶんとお久しぶりになってしまいました。もう12月ですね!早いものです。さて、ずいぶんと寒くなってきましたが、寒さに負けないように元気に紹介しようと思います!今回の論文はこちら!

Maternal Brain TNF-a Programs Innate Fear in the Offspring

題名を訳せば、「母親の脳のTNF-aが子供の生まれながらにして持つ恐怖心をプログラムする」、となります。言い換えれば、「母親の脳の中のTNF-aの量がわかれば、そこから生まれた子供がどれくらい臆病者か、子供を見なくても予測できる」、ということです。

 

・・・すごくないですか!?

 

というわけで、背景知識の紹介をします 笑

まずTNF-aというもの、これはTumor Necrosis Factor-alphaの略称で、簡単に言うとガン(Tumor)を殺すために免疫細胞が分泌するタンパク質です。基本的には、白血球(マクロファージ等)から出ているものですが、実は脳の中でも“グリア細胞”とよばれる細胞が分泌していることがわかっています。脳の中のTNF-aは、ガンを殺すためというよりもむしろ、神経細胞に働いて、神経細胞同士がしっかりと繋がり、脳として機能することを助ける役割を果たしています。

現在の技術では、このTNF-aを体内で全く作ることができないネズミを作ることができます。このネズミは、免疫機能に異常があることは知られているのですが、案外、脳の機能(感情や記憶能力など)には変化がないことが知られています。ですので、脳のTNF-aが本当に大事なのかどうかが、わかっていませんでした。

この論文の研究では、そんなTNF-aを持たないネズミの子供に着目して、とても面白い発見をしています。あらすじを述べれば、

  1. TNF-aを持たない母ネズミから生まれた子供は、恐怖心が弱いことを発見した
  2. 免疫細胞の分泌するTNF-aは、1.の結果には関与しなかった
  3. 妊娠中に脳の中で分泌されるTNF-aが、1.の結果に大切であることを見出した

実は、脳の中のTNF-aの量がどういうときに変わるのかという点に関しては、既に研究されています。ネズミが活発に運動した場合にはTNF-aの量が少なくなり、ネズミがストレスを感じるとTNF-aの量が多くなるのです。今回の報告と合わせると、母ネズミが妊娠中に活発に運動していれば、生まれてくる子供は恐怖心が弱く、逆に母ネズミが妊娠中に大きなストレスを感じれば、生まれてくる子供は臆病者になる、ということが予想されます。

これは自然界では非常に大事で、母ネズミが妊娠していても自由に動けるくらい安全な環境であれば、生まれてくる子供は恐怖心(=警戒心)が弱くても問題なく、えさなどをより効率よく探すことができるのに対して、母ネズミが妊娠中にストレスを感じるくらいに危険な環境であれば、生まれてくる子供は強い警戒心を持っていなければ、すぐに捕食されてしまいます。そのような、うまく子孫を残すための自然界の仕組みとして、この脳のTNF-aは機能しているのかも知れません。

この論文はネズミの論文なので、ヒトでもこうなるのかどうかはわかりません。しかし、絶対に違うとは言い切れません。ですので、女性の方々、もしも妊娠したら、適度な運動を心がけましょう。そして男性の方々、もしも自分の奥さんが妊娠したら、舅小姑問題で奥さんがストレスを感じないように、うまく立ち回ってあげて下さいね!笑

 

それでは今回はこのあたりで。最後まで読んで下さってありがとうございました!

 

 

痛みも気から?

どうも、ぷにぷにアザラシです。今回紹介する論文はこちらです!


ノシーボ効果」という言葉をご存じでしょうか?あまり有名ではないかもしれません。それでは、「プラシーボ効果」はどうでしょう?こちらは、多くの方が耳にしたことがあるのではないでしょうか?プラシーボ効果とは、「効果の無い薬(プラシーボ)を飲んでいるのに、あたかも効果があるかのように症状の改善などが観察されること」を指します。ノシーボ効果とは、プラシーボ効果とは逆で、「効果の無い薬(プラシーボ)を飲んでいるのに、あたかも毒のように副作用など体に悪い症状が表れること」を指します。

プラシーボ効果もノシーボ効果も、簡単に言えば「思い込み」です。ですので、「思い込みなんて気にしなければいいじゃん」と思う方もいるかも知れません。しかし、この思い込みが非常に問題になるケースがあります。それは、薬の治験(臨床試験)です。薬の治験では、その試験で試す新薬が、プラシーボ(または新薬と似たような薬)よりも効果が高いことを示す必要があります。ですので、プラシーボ効果があると、プラシーボを飲んでいる被験者でも治療効果が確認されてしまい、本当の新薬の効果を判定できなくなります(差が無くなる)。逆に新薬にノシーボ効果があると、新薬を飲んでいる被験者で“嘘の”副作用が出てしまい、せっかくの良い新薬が取りやめになってしまうこともあります。このようなことは極力防ぐことが大切なのです。

しかし、一般的に治験では、その薬を飲む被験者はもちろん、それを投薬する医療従事者さえも、その被験者の飲む薬が新薬なのかプラシーボなのか、わからないように工夫されて試験が行われます。ですので、一体何がプラシーボ効果やノシーボ効果を助長するのか、それを解決するのは非常に難しい問題です。今回の論文ではそのうちノシーボ効果でおこる痛みについて、とてもユニークな点に着目しました。
 
それはなんと、「薬のラベル」です。今回の論文の著者達は、プラシーボを用いて、薬のラベルだけ安っぽいものと高そうなものを2つデザインして実験しました。すると、高そうなラベルのものを使った時に、ノシーボ効果で痛みが起きる頻度が非常に増大することを発見したのです!
 
さらにこの論文では、MRIという診断術を用いて、脳や脊髄の活動を捉え、なぜ痛みが強くなるのかを研究し、「下行性抑制系」とよばれる痛みの制御システムがノシーボ効果による痛みに関与することを突き止めました。下行性抑制系とは、「脳が痛みを抑えるために、脳(上)から脊髄(下)へ信号を伝える仕組みのこと」をいいます。例えば、大切なサッカーの試合の途中で足を途中でねんざしても、その時には痛みを感じず試合に集中できて、試合が終わった後に痛みが増えてくる、という事例を想像できるかと思います。これは、脳がサッカーの試合中に興奮していて、下行性抑制系を介して痛みを抑えているためです。今回の論文では、高そうなラベルのものを見た時に、この下行性抑制系が働きにくくなって、痛みが強くなるのではないか、ということを明らかにしました。
 
というわけで皆さん。薬のラベルが高そうでも安心して使うように、自分に言い聞かせましょうね!
それでは今回はこのあたりで。最後まで読んで下さりありがとうございました!

電気を感じる

ぷにぷにアザラシです。2回分、大学の研究の紹介を挟みましたが、今回は久しぶりに論文の紹介をしたいと思います。本日の論文はこちら!

Molecular basis of ancestral vertebrate electroreception

です!
今回のお話は、に関するものです。魚の中には、サメやエイなど、環境中に存在する微妙な電気の変化を感じとって生きているものが存在します。彼らはそういった電気変化を感じることで、お互いにコミュニケーションを図ったり、獲物を捕らえたり、地球の磁場に従って向きを把握したりするわけです。そういった習性についてはよく分かっていたのですが、彼らがどうやって電気を感じているのかについては、全く分かっていませんでした。

そもそも、私たちが感覚(熱い、痛い、くすぐったい、etc...)を感じるのはどうしてでしょうか?これは、私たちの皮膚にある“神経”が、そういった外からの刺激に応じて電気を発生し、その電気を介して脳に情報を伝えるからです。つまり、“神経”が電気を感じとる仕組みを知ることが出来れば、サメやエイが電気を感じとる仕組みも分かるわけです。今回の論文では、エイの電気センサーとして働いている細胞を使って電気を感じとる性質を見つけ出し、さらにはその“電気センサー”の性質も明らかにしたものになります。

  1. エイの電気センサーとして働いている細胞には、電位作動性カルシウムチャネル(Cav1.3)とカルシウム依存性カリウムチャネル(BK)というタンパク質があった
  2. エイのCav1.3は、ネズミにあるCav1.3にくらべて、電気に対する感受性が高かった
  3. エイのBKはネズミにあるBKと性質が異なり、その結果、エイの電気センサーとして働いている細胞がうまく電気に応答するようになっていた

この論文のすごいところは、ちゃんとエイのCav1.3やBKを、他の動物のものと比べて、なぜエイだけが電気を感じることが出来るのか、しっかりと明らかにしているところだと思います(無料ではないので詳しいことを書くことが出来ないのは残念ですが。。)。また、このCav1.3というタンパク質、実はヒトでは耳の音を感じる器官にたくさん存在していることが知られています。実は、エイの電気センサーとして働いている器官は、発生学的にヒトの耳と似たようなものであることは既に知られていて、今回の報告でさらに、そのメカニズムも似ているということが明らかになりました。自然って本当にすごいものだな、と、こういう発見をみると毎回思い知らされます。

もう今の若い人は知らないかも知れませんが、私は昔、ブラウン管のテレビがついているかどうかを、テレビを見なくても当てることが出来ました(今はもうないので、今できるか分かりませんが)。ブラウン管のテレビは電源がつくと、耳鳴りのような高い音がして、それを根拠に判断していたのです。今回の報告と合わせると、もしかすると、ブラウン管のテレビから出ている電磁波が、私の耳のCav1.3を活性化して、その結果ブラウン管のテレビの電磁波を「音」として感じていたのかもしれないな、とふと思いました。あと考えたのは、地震の直前に野良猫がいなくなるなど、よく耳にしますが、もしかするとそういう動物の耳のCav1.3には、まだエイのCav1.3のような電気センサーとしての機能が少し残っているのかも知れませんね。

そんな感じで、今回はエイのお話でした!最後まで読んで下さりありがとうございました!