The Scientific Ocean

誰にでもわかりやすいように生命科学を解説しようとするアザラシのブログ。

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心のブレーキ

こんにちは、ぷにぷにアザラシです。お盆ももう暮れですね。このけだるい暑さもお盆と共に過ぎ去ってほしいものです。

さて、今回紹介する論文はこちらです!

TRPC5 channels participate in pressure-sensing in aortic baroreceptors

私たちの命を維持する上で最も欠かせない臓器、心臓。私たちは何も意識することなく心臓を動かしています。走ったり泳いだり激しい運動をすると酸素をたくさん全身に運ぶために心臓はたくさん拍動するようになります。脈が早くなると感じるのはこのためですね。しかし、マラソンのように長距離走ったとしても、心臓が凄まじい早さで拍動することはありません。ある程度の上限は決まっています。なぜでしょうか。

そこには、お年寄りがよく気にする血圧が関係しています。脈拍が上がると、相対的に血圧が高くなります。ヒトの体はこの血圧を感知して、血圧が高くなると心臓へ「脈拍を遅くしろ!」と指令が下る仕組みになっています。そのため、脈拍はある程度までしか上がることができないのです。

この血圧はいったいどこで感じているのでしょうか?それは、大動脈弓頸動脈洞と呼ばれる、心臓のすぐ近くにある動脈で感じています。フリー素材の心臓の絵を使わせてもらうと、

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このうち、大動脈弓は上の赤い部分、頸動脈洞はその赤い部分の突き出ている2つの管(カタツムリの目みたいに突き出ている部分)になります。本当に心臓のすぐそばです。

この大動脈弓や頸動脈洞に位置している神経が血圧ー脈拍の調節に非常に大切なことは古くから知られていました。しかし、この神経がどうやって血圧を感じているのか、その詳しいメカニズムは不明なままです。今回の論文はそんな疑問に立ち向かった話になります。発見の詳細を記すと、

  1. TRPC5というイオンチャネルが大動脈弓や頸動脈洞に位置する神経に存在することを確かめた
  2. TRPC5を働かなくしたマウス、TRPC5を持たないマウスでは血圧ー脈拍制御が上手くいかなかった
  3. TRPC5は血圧を模倣した圧力の変化を感知することができた
  4. TRPC5を持たないマウスは通常時血圧が普通のマウスに比べて高く、薬(フェニトイン)を用いて血圧を上げた際にも、普通のマウスで見られるような脈拍の減少が弱くなっていた

TRPC5が血圧および脈拍の制御に大切であることに関しては、今回の論文が初めての報告になります。この研究者達は以前にもTRPC5が細胞膜の伸展によって開くことを確かめていて、今回の論文はその「細胞膜の伸展」が血圧の感知に結びついていると示した、発展的な内容となっています。TRPC5を持たないマウス自体は以前から存在しているのですが、今回の4.の発見がもしも本当であるならば、今までのTRPC5を持たないマウスを用いた研究結果が、この血圧の違いによって引き起こされていないことを調べる必要があるのかもしれません。

昨今の高血圧治療薬は主に心臓や血管に直接働きかけるものや、腎臓に働きかけるものが多く、このような血圧を感知する神経に働きかけるものは少ないように思います。現在の高血圧治療薬では満足に血圧をコントロールできず、たくさん薬を飲んでいるような患者さんもいらっしゃることは事実です。もしかすると、このような新しい血圧コントロールのターゲットが、新しいよく効く薬の種につながるのかもしれません。

 

以上になります、最後までありがとうございました!
ぷにぷにアザラシでした!

ニューロンの嫌がらせ

おひさしぶりです、ぷにぷにアザラシです。最近暑くて死にそうです。。夜家に帰ると室温34℃。。何とかなってくれないものか。

というわけで(?)、今回紹介する論文はこちら!

Somatodendritic Expression of JAM2 Inhibits Oligodendrocyte Myelination

です。

以前の記事でも紹介しましたが、私たちのからだの中にニューロン神経細胞)という「伝線」があって、そのおかげで私たちは体を動かせたりモノを考えたりすることができます。ニューロンというものは「伝線」なのですが、実は伝えられる方向が決まっています。例えば、左から右に情報を伝えるニューロンは、決して右から左に伝えることはありません(ダイオードのようなものですね)。

ところでニューロンの伝達する情報には、音や視界など、私たちがリアルタイムに対応しなければならないモノも含まれます。そのため、ニューロンの伝達は出来るだけ速いほうが都合が良いこともあります。ヒトの体は良く出来ているもので、こういうニューロンの伝達を引き上げるために活躍する細胞が存在します。それがオリゴデンドロサイトです。オリゴデンドロサイトは自分の一部をニューロンに巻き付けることによって「髄鞘」とよばれるものを作り、ニューロンの伝達速度を大幅に引き上げることが出来ます(跳躍伝導とよびます。Wikipediaこちら)。

このオリゴデンドロサイト、ニューロンがいたらどこでも巻き付くのかといわれると、実はそうではないんです。初めにニューロンの情報を伝達する方向は決まっていると述べました。ニューロンニューロン同士でつながって伝線を形成しています。その特徴を利用してニューロンの各部位には、下の図のように名前が付いています。前のニューロンから情報を受ける部分を「樹状突起(青)」、情報を後ろのニューロンに投げる部分を「軸索(緑)」と呼びます。オリゴデンドロサイトはこのうち、ニューロン軸索にだけ巻き付くということが古くから知られています。オリゴデンドロサイトは巻き付けそうなものがあればとにかく巻き付く性質があるのですが、どうして樹状突起など他の部位は巻き付けられずにいるのか、全くもって不明でした。今回の論文は、そんな昔からの不思議を見事に解明したものです。

 

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 今回の論文の主な発見は以下の通りです。

  • 次世代シークエンサーを用いてJAM2と呼ばれるタンパク質がその原因であると見出した。
  • JAM2を自分で作れないように遺伝子操作したネズミでは、オリゴデンドロサイトが軸索以外(ニューロンの細胞体)に巻き付いていることが観察された。
  • オリゴデンドロサイトはこのJAM2のシグナリングを介して軸索を選択することが出来ることを見出した。

 次世代シークエンサーを用いた研究は昨今盛んですが、今回もその技術を巧みに利用しての大発見だと思います。さらに、その技術で見つけたことをしっかりと遺伝子操作などを利用して証明することで、堅固な論証が出来ていると感じました。

オープンアクセスな記事ではないのであまり詳しいことは書けないので、これ以上はこの論文について書かないようにはしますが、今まで不思議に思われていたことを、こうやって最新の技術を用いて証明できることを目の当たりにすると、昨今の科学技術の進歩はすごいんだなと、安易な表現ではありますがそう感じます。ただ、最新の科学技術があるからといってすぐに大発見が出来るわけではなく、この人たちのように、その技術とすこしのヒラメキを合わせることによって始めて大きな発見が出来るのだと思います。

今回の発見は要約すると、ニューロンJAM2を出してオリゴデンドロサイトの巻き付きをジャマする、ってことですね!

・・・猛暑なのでこれくらい寒いギャグの方が良いでしょう。。くそぅ。。。

ということで今回はこのあたりで!

次回もよろしくお願い致します!

 

細胞は電気回路

ぷにぷにアザラシです。

 

今日は「電気生理」のコラム第3回をお届けします。

(ちなみに第2回はこちら

 

前回までに、細胞の外と中ではイオンの様子が異なることをお伝えしました(外にはナトリウムやカルシウムが多く、中にはカリウムが多い)。どうして細胞の外と中でイオンの様子が異なるかというと、「トランスポーター」と呼ばれる“ポンプ”が一生懸命ナトリウムを外へ、カリウムを内へ、というようにくみ出しているからです。つまり、本当は、ナトリウムは細胞内に、カリウムは細胞外へ動きたいのに、それが“ポンプ”の働きによって抑えられているのです。

では、そんな状況でもしも、細胞に“”が開いたらどうなるでしょうか?たちまち細胞内へナトリウムが入り、細胞外へカリウムは出て行ってしまうでしょう。実は細胞にはこのような“”が存在します。それが「チャネル」と呼ばれるものです。

多くの「チャネル」は普段閉じられています。しかし、いざという時に開いて、細胞のイオンバランスを壊します。イオンバランスを壊すとどうなるのでしょうか?例えば細胞の外からナトリウムが入ってきた時を考えましょう。ナトリウムというのは「+(プラス)」に帯電しています。プラスが中に入ってくるということはどういうことでしょうか?ここで、おそらく皆さんが習ったであろう「電気回路」について振り返りたいと思います。

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プラスが移動するとはすなわち、「その方向に電流が流れる」ということを意味します。つまり、細胞に電気が流れるということです!実は私たちが普通に生活している間に、体中の細胞はビリビリと電気を流して自分の役割を果たしたりしているわけです。電気を流してどんなことがあるのでしょうか?一番有名なものは、ここでも昔取り上げたように、「神経細胞」と呼ばれる体中の電線が情報を脳に伝える時に大活躍しています(神経細胞の記事はこちら)。神経細胞に電気が流れるのは、例えば私たちがヒジの柔らかいところを机の角にぶつけた際にジーンと来るような感覚から、何となく想像できるのではないでしょうか?おそらくあのぶつけた時には、かなりの電気が流れているのだと思います。

もしかするとよくここの記事を読んでくださっている方は、前回の精子の記事にも「チャネル」が出てきたことを覚えておられるかもしれません(精子の記事はこちら)。しかし、この時は電気ではなくて、カルシウムイオンが大切な役割を果たしています。生き物って難しいものです。

ところでこんな電気の流れってどうやって測るんだろう?と思われた方も多いのではないのでしょうか?しかし実際、とある実験をすることでこの電気を私たちは測ることができます。そのことについてはまた次回触れたいと思います。次回で電気生理についてのコラムは最後にしようと思います(読者数を見ていると論文紹介の方がよく見られていそうですし)。

では、また次回もどうかお付き合いよろしくお願い致します。

ぷにぷにアザラシでした!

泳ぐか泳がないか

(人によっては今回のお話は科学的ではあるものの、“卑猥”と思うかもしれません。そういうお話が苦手な方は回避してください。)

こんばんは、ぷにぷにアザラシです。

今日は少し古いですが、2010年に発表された論文について紹介したいと思います。今日紹介する論文はこちらです。

Acid extrusion from human spermatozoa is mediated by flagellar voltage-gated proton channel

Spermatozoa。精子ですね。精子というと卵子まで頑張って泳いでいる姿を思い浮かべる方が多いと思います。しかし実は泳いでいる精子は女性体内でしか観察できない現象で、男性体内では決して泳いでおりません。その詳しいメカニズムについては当時よく分かっておらず、この論文が出るまでに分かっていたこととしては、「精子内部が酸性からアルカリ性になると精子は泳ぎ出す」というものでした。今回の論文はそんな未知を解明した論文になります。

この論文で報告された重要な点は以下のようになります。

  1. 精子には水素イオン(proton, H+)を通す「穴(チャネル)」があり水素イオンが精子の中から外に逃げていく。
  2. “アナンダミド”と呼ばれる油(脂質)によってその「穴」を通る水素イオンの量が多くなる一方で、亜鉛によってその「穴」は閉じられる。
  3. ヒトの精子には1.の「穴」が多いのに対してネズミの精子にはそれが非常に少ない。

ひとつずつ解説してゆきます。

1.について、水素イオンというのは酸性やアルカリ性を決めるもののことです。水素イオンが多くなれば酸性になり、逆に少なくなればアルカリ性になります。今回の論文では精子には水素イオンを通す「穴」があって、それによって水素イオンが精子の中から外に出て行きました。つまり、精子の中の水素イオンが少なくなったので精子の中はアルカリ性になったということです。精子の中がアルカリ性になるとどうなりましたか?そうです、精子は泳ぎ出すのです。つまりこの「穴」が開くと精子は泳ぎ出すことになります。ではどうやってこの「穴」の開閉を体の中で制御するのでしょうか?それが2.の発見につながります。

2.に出てきた“アナンダミド”とは、生殖器系においてたくさん存在することが知られています。つまり1.の「穴」はこのアナンダミドによって開きやすくなっていたわけです。では亜鉛はどうでしょうか?実は亜鉛は体の中に比べて精液中に大量に含まれていることが知られています。なので、男性体内では1.の「穴」が閉じられてしまうため、精子は泳ぐことができない、ということです。生命の造りの巧妙さに驚かされるばかりです。

3.はさらに驚きだと思います。なぜなら、1.と2.から、この「穴」は精子(つまりは受精や子孫の繁栄)に非常に大切だと思われるのに、進化的にこの仕組みが保存されていないことをはっきりと証明しているからです。これはかなり異常なことだと思います。なぜなら、骨や筋肉や脳や血液まで、ヒトとネズミはよく似ていることが知られています。だから私たちはほとんどの場合、ヒトの代わりにネズミを使って実験をして、新しい薬や治療法を見つけ出そうとするのです。もちろんネズミとヒトは生活の仕方が違うので、それぞれに必要な部分が発達して、必要の無い部分は退化しています。しかし、子孫繁栄はネズミとヒトだけでは無くすべての生物にとって非常に重要なことであるはずです。なのにヒトとネズミでこんなに違う。おそらくネズミにはこの研究で見つかった「穴」以外の何か“別物”があるのでしょうが、どうしてネズミの持つ仕組みが捨てられ、別の新しい仕組みをヒトは得たのか。本当に謎でしかありません。もしかしたら子宮の数とか、そういうところで差があるのかもしれませんが、こんなにも違うことに本当に驚きました。

このヒトとネズミで精子の運動システムが違うということは、ヒトの不妊治療の研究をネズミで実験してもうまくいかないかもしれない、ということを意味していると思います。最近の不妊治療の研究について私は残念ながら無知ですので何もお応えできませんが、そういう観点が非常に大事になるのかもしれないと思いました。それにしても生命って本当に不思議なものです。

以上になります!ありがとうございました!

ではまたよろしくお願い致します!

見分ける技術

お久しぶりです、ぷにぷにアザラシです。最近暑いですね、夏がやってきてしまう。。先週実は北海道に少し行ってきたのですが、北海道も残念ながら暑かったです。。

さて、今日はそんな暑さを吹き飛ばすべく、論文を紹介してきたいと思います!本日紹介する論文はこちら!

New tools for studying microglia in the mouse and human CNS

です!

ちょっと前置きを説明すると、私たちの赤い血液の中には、たくさんの細胞が存在しています。赤血球や白血球、血小板は聞いたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。そのうち白血球にはさらにたくさんの種類があって、たとえばT細胞やB細胞、単球というものが存在します。

このうち単球には(他のもそうですが)さらにたくさんの種類があります。マクロファージや破骨細胞、樹状細胞、クッパー細胞にミクログリアこれらの多くは住んでいる場所によって区別されます。例えば破骨細胞は骨、樹状細胞は皮膚、クッパー細胞は肝臓、ミクログリアは神経(中枢神経系 (central nerve system, CNS))、という具合です。人間でいうと日本人は日本、中国人は中国、アメリカ人はアメリカ、イタリア人はイタリアに住んでいる、みたいな感じです。マクロファージは色々な臓器に入っていくので、旅人のような感じでしょうか。

現在、これらそれぞれの細胞に対して多くの研究がなされてきているのですが、その中で取り残されていた大きな問題のひとつに「ミクログリアとマクロファージを分けることが非常に難しい」というものがありました。簡単に言うと、「イタリアの中でイタリア人と旅人を明確に分けることができなかった」、ということです。今回紹介する論文は、その大問題にネズミとヒト(ご検体)を用いて果敢に挑戦し、それを解決したひとつの事例です。

今回の論文の大きな発見は以下のようなものになります。

  1. TMEM119というタンパク質がミクログリアにおいてのみ存在することを発見した。このタンパク質はマウスが誕生してから徐々に増えていき、生後14日で最大となった。
  2. TMEM119の存在は、マウスに炎症などの病気を引き起こした状態でも安定して観察することができた。
  3. TMEM119を用いることによって、ミクログリアを脳から選んでくることにより、今までは不可能だったミクログリアでの遺伝子的な変化を観察することに成功した。
  4. ヒトにおいてもTMEM119がミクログリアにおいて存在していた。

とにかく、TMEM119を見つけたことが何よりも素晴らしいのですが、これがマウスを病気にした時でも使える(2)ということがさらに素晴らしいのです。なぜなら、今まで見つけることができなかった病気の時のミクログリアのはたらきを、このTMEM119を用いることによって、今までよりもかなり簡便に証明することができるようになるためです。ミクログリアは神経に存在しているため、アルツハイマー病や脳卒中など多くの脳での病気に密接に関与すると言われる細胞です。さらにこのアルツハイマー病や脳卒中は、満足のいく治療薬がほとんど存在しないのが現状です(つまり発症したら半分くらいは諦めざるを得ない)。今まで行われてきた研究で病気の時のミクログリアのはたらきは数多く示されてきてはいますが、どうしても旅人であるマクロファージが紛れ込むため、本当のミクログリアのはたらきを追うことができていませんでした。それが、この論文の研究の発見によって可能になったのです。本当に素晴らしいと思います。この発見によってミクログリアの「本来の姿」が証明され、新しい治療戦略が生まれることを期待しています。

少し難しい話をすると、TMEM119は「膜貫通型タンパク質」であるため、外から「抗体」と呼ばれるミサイルみたいなもので「狙い撃ち」することができます。ですので、もしもミクログリアアルツハイマー病などで“悪者”として活躍するのであれば、この抗体と“爆弾”である抗がん剤などを合体させてやれば、ミクログリアだけを爆弾で狙い撃ちしてやっつけて、病気を治すことができるのかもしれません(この、抗体爆弾というお薬は、別のものですが実在します)。そういう、研究の発展とは別の方向でも活路があるような研究だと感じました。

本当に、この論文を読んだ時は感動しました。この論文で発見された新しい技術はきっと、これからの研究と新薬開発の未来を大きく動かすことでしょう。私もこんな発見ができるように頑張らなくてはと思いました。

 

以上になります!ありがとうございました!

ではまたよろしくお願い致します!

中の世界と外の世界

こんばんは、ぷにぷにアザラシです。

今日は第2回「電気生理」のコラムを書きたいと思います。
(ちなみに第1回はこちら

前回紹介したように、私たちの体の中のイオンは厳密に調節されています。
では、もう少しその中身を見ていきたいと思います。

ご存じの通り、私たちの体は、水や油が単純に詰まっているわけではありません。口があってそこから食道や胃というものがあって小腸があって大腸がある。さらには別の道に行けば気管につながって気管支に分かれて肺胞に到達する。肺胞には血液が流れていて、その血液の道である血管は体中を巡り、心臓を中心にぐるぐる回っている。その血液の中にも赤血球や白血球があって・・・と書き出すとキリがないくらい、複雑な作りになっています。しかし今取り上げた見た目の全く異なるさまざまな体の各部はすべて、似たようなものの集まりでできています。それが「細胞」です。

細胞。おそらく「iPS細胞」といった言葉で聞いたことがある人も多いと思います。どんな見た目をしているか、といいますと

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といった感じです(フリー素材の絵ですが)。各細胞はさまざまな形状をしてはおりますが、すべての細胞はとても単純化するとこんな構造をしています。

前置きがかなり長くなりましたが、今日の話題に入ります。実は前回お伝えしたイオンですが、細胞の内と外とでかなり様子が違うということが分かっております。どれだけ違うかといいますと、こちら!

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はい、これくらい違います(目玉みたいなのが細胞と思ってください。文字の大きさが濃度を反映しています、濃度の値は参考までにしてください)。
(注意:mMやnMは濃度の単位で、mMはnMの百万倍です)
細胞のには基本的にナトリウム(Na)塩化物(Cl)イオンが多いのに比べて、細胞にはカリウム(K)イオンが多い、というのが特徴です。カルシウム(Ca)イオンについても、他と比べると濃度自体は小さいのですが、細胞の中と外を比べると一万倍も外の方が多いようになっています。
前回「カリウムは、高濃度になると死に至る」と書きましたが、これは細胞内に多いはずのカリウムが細胞外に増えてしまうことで、細胞(特に心臓)がうまく働くことができなくなるために、結果的に死んでしまうためです。

今回は細胞の内と外でイオンの様子が違うということを紹介させていただきました。次回はこのイオンの様子が違うことで生まれてくる細胞のある特徴について紹介させていただきます。やっと、どうしてこのような知識が「電気生理」と呼ばれるのかが理解できるかと思います。

それではまた次回もよろしくお願いします!